Rubaiyat



Godius小説~変わりつつある気持ち・変えなきゃならない現実~ エピローグ

 早朝から、太陽は仕事熱心だ。その勤勉さに、私は笑顔で応える。
 エイドスでの戦闘から一週間。私達は4日前キャズウェルに到着して、久しぶりの余暇を過ごしている。町の一角にある我らがギルド“にゃはは”用宿舎の軒先で、私は日課の水遣りを済ませていた。ブラウスがすれただけで激痛を発していた背中も、ここ数日の治療のおかげで回復に向かっている。――それでもまだ痛いけど。その背中の小さな刺激を無視して、私は思い切り全身を伸ばした。喉の奥に溜まった欠伸を押し出して、全身を新鮮な空気で満たす。心地良い満足感が、日の光と共に胸の奥を暖めた。
 「のどかな朝だ。本当に」
 以前の私は、自分がこの雰囲気に同調してしまうことに不安と嫌悪を覚えていた。同調することで、力を望んだ決意を、生きる意味を放棄してしまいそうな気がして怖かったのだ。しかしそのような恐怖を感じておきながら、一方では自分の決意がどれだけ無意味かを頭の中で反芻して、放棄したがっていた。意固地な正義感と、生への妥協で板ばさみになる日々。その窮屈な世界から手を引いてくれたのが、まさかたった一輪の花だとは。
 「すごいなぁ、お前」
 少し笑って、水滴で輝くヘンリエッタを撫でた。少し背の伸びたその身体は、撫でる手に命の力を主張する。
 またも先達の言葉を借りるなら「死んだ親より、生きている恋人」とでも言ってみよう。聊か薄情にも取れる言葉だが、そもそも親だろうが子だろうが死人に対してできることなど何も無いのだ。だったら自分と大切な人の命のために生きるのは当然とも言える。命を使う方向性を変えてくれたヘンリエッタは、私にとってもっとも大切な人だ。――しかしこの年で植物が恋人では、寂しい負け犬女に思えて余り好ましくないな。
 どうしたものか、などと悩んでいると背後のドアが開く音がした。おはよう、と声をかけると、彼女は長い金髪を揺らして眠そうに微笑んだ。ああ、もう一人、大切な人が居たのを忘れてた。
 「珍しく早いね、ヘンル」
 休暇中の彼女は、昼前に寝癖を揺らしながら部屋から出てくるのが常だったが、今日は早く起きられたようだ。しかし赤いパジャマを着て、サンダルを履いているその姿は明らかに寝起きだ。彼女は眠そうに目をこする。
 「リメさんが水遣りしてるって聞いたから私もさせてもらおうと――」
 「あんたは遣りすぎるから駄目」
 私がにべもなく言い放つと、ヘンルはうぅと少しうめいて、そのまま眠そうに欠伸をした。ほんとに眠いんだなこいつ。
 彼女の一言が無かったら、私はこののどかな朝を迎えることが出来なかっただろう。油の足らない歯車のような、目の粗いのこぎりのような朝を迎えていただろう。本当に感謝してる。こういう人のためにこそ、命を使うべきだと思ってる。――ヘンリエッタに水を遣っていいかどうかはまた別の話だけど。
 「リメさん」
 ヘンルは眠そうな目を開けて私を真っ直ぐ見ていた。相当頑張っている様子が見て取れてちょっと笑いそうになってしまう。
 「園芸楽しい?」
 「楽しいよ!」
 私は自信たっぷりに言い放った。喜びと、感謝を乗せて言い放った。顎の力が抜けて、頬が少しつりあがる。目元が緩んで、眉が弓なりに山を作る。今はもう、綺麗に笑える。これを取り戻すことが出来たのも、ヘンリエッタに会えたのも全部ヘンルのおかげ。それなのに。
 「ありがとう」
 なんであんたがありがとうって言うのさ。しかもそんな幸せそうな笑顔浮かべて。それはこっちの台詞だっての。あ、やばい。今ちょっと「自分が男だったらなー」とか思っちゃったじゃないか。私はノーマルだってば。勘違いさせるなバカ。
 私がそうやってあたふたしてると、ヘンルは急に表情を暗く沈めた。その急な豹変振りに私は首を傾げる。
 「寂しくなるね」
 ――は?
 「お店開いたら連絡してね。ちゃんと行くから」
 いやちょっと待て。
 私は表情を強張らせて、平手をヘンルの顔の前に掲げた。
 「何の話をしてる」
 まさにきょとんという単語が似合うほど、ヘンルは目を丸くした。
 「だって、ギルド辞めて園芸屋始めるんじゃないの?」
 「誰がそんなこと言った」
 私は確かに、戦いに身を置く環境を懸念していた。けれどそれは、目的の無い殺戮に成り下がりつつある状況を嫌っただけであって、戦いそのものを否定的に考えたわけじゃない。
 「え。え?」
 今私は守らなければならないものが出来た。大切な人が出来た。養うべき子が出来た。そのためにいくつもの命を奪うことになっても、それはきっと無意味じゃない。少なくとも、これまでよりは。 
 「ヘンリエッタを養うために、もっと多くの植物を育てるためにお金が要るし、ヘンルのお守りもしなきゃならないし。まだまだ当分、抜けるなんてできないさ」
 「ほんとに!?」
 ヘンルは笑顔を取り戻して大声を上げた。その嬉しそうな仕草が、私にもたまらなく嬉しい。
 「うん。だから――」
 私は少し照れ臭く感じつつ、ゆっくりと右手を差し出す。
 「これからも、よろしく」
 やっと始まりつつある本当の私の旅。その旅路を、勤勉な太陽が拍手で祝福していた。

 なお、子供のように泣きじゃくって飛びついてきたヘンルを、光速ではたき落としたのは言うまでもない。

 (終)



やっと終わりました・・・突発的にやるとかほざいた割りにはとんでもなく長い企画になってしまった・・・もう二度とやるもんかと思う今日この頃陸堂です。
文章が余りにも酷いとか、戦闘にだけ力入れすぎとか感じたことは一杯あるんですが、一番思ったことは「タイトルだけ一人歩きしてる」でした。なんか異様にタイトルだけ重たく感じます。鞄に無駄な教科書つめて通学していた高校生時代の気分です。思い出すだけで超肩いてぇ。
まぁリーメルが晴れやかな女の子(?)になれたということで勘弁してください。

読んでくださった方々、ありがとうございました。
陸でした。
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by hisaya_rikudo | 2006-09-27 22:22 | 小説
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御国を守ります。
桜並木を切り飛ばす。

作品力を上げたい!同盟参加してます。

HN:陸堂久弥
好きなもの:麻雀
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■Diabolia(連載中)
Infomation
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クエストファイル2
白昼の暗器
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Diabolia外伝
~陰謀と策略の影の愛情~
[1][2][3][4][5][6]
ある戦場にて(一話のみ)
記憶を濡らす琥珀酒(日向過去話)
幕間~霧上魔狐兎とゲイル・マクミール~


■兎に角なし(連載中)
キャラクター紹介
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梅雨に乾杯

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僕は彼女が好きなんだ

フィオラ・ダンテの詩

悲しき呟き

空を飛んだ少年

My Name Is Time

偉大なる先達を讃えて

カチタイ。イキノコリタイ。

僕は道化

蜃気楼のオアシス

身勝手なHappyBirthday

エルフの御伽噺

生まれながらにして孤独
死に絶えるもまた孤独


タイトル省略

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