Rubaiyat



カテゴリ:小説( 11 )


気まぐれで書いたSS

SnowWhiteのサブストーリー
サーフィス主役のショートショートです。
ザインとサーフィスが出会う四年以上も前の話。
stage16から17の間でのサーフィスの台詞を覚えていたら、どの辺りの話なのか分かる人も居るでしょう。



呟く死者、遮る死者


「リシャールが死んだんだって?」
 僕が態々友の死を確認したのは、それが驚きだったからじゃない。ただ、待機中に途切れた会話を繋ぐ為ってだけだ。幅広の刃を腰にぶら下げた赤毛の男は、僕の問いかけに粗野な鼻息を返す。
「ああ。ジリウス丘陵でエタニア兵の奇襲を受けたらしい」
 全く、何やってんだか。彼はそう締めくくると、苦悩と悲しみと、そして少しの怒りを混ぜた溜息を吐き出した。
「随分とよく死ぬねぇ、最近」
 僕は決して情が無いわけじゃない。人よりそれが薄いという自覚はあるが、それでも同じ釜の飯を食った仲の人間が死ぬことに全く無関心でいられるほど、薄情であるつもりは毛頭ない。
 じゃあ何故、友の死を他人事のように口に出すのか。答えは簡単。慣れてしまっただけだ。流石に、両手に余るほど死なれたら、もう涙なんて流れない。
「こんな世の中で、そして俺らはこういう仕事だ。当然だろう」
 にべもなく言い放つ彼は、書きなぐる書類から目線を離そうともしなかった。彼も別段冷たい人間というわけではない。同じく慣れてしまった。それだけだ。
 僕は何となく煮え切らなくなって、羽ペンを放り投げ、背もたれに身を預けた。身体を伸ばす開放感と、椅子のきしむ声が、心地よさと不快さをかき混ぜる。
「主の御許へ行っちまったかぁ。あっちでも元気に走り回ってるといいんだけどね」
 何気なく虚空へ投げかけた独り言が、どうも彼の興味を引いたようで、彼はこちらに顔を上げると、呆けたような目で僕の顔をしげしげと眺めていた。
「お前がそんなくだらないこと言うなんてな。ろくに礼拝もしないくせに」
 ――言われてみれば確かに柄じゃないことを呟いたものだ。彼に指摘されるのは、聊か筋違いな気もするけれど。
 とりあえず嫌味の一つでも言っておこう。
「君は大層敬虔な教徒だもんねぇ。その火みたいな髪の毛から引火すれば火葬の手間いらずだし、ここは一つ主の御許へ社会研修でも行ってみたらどうだい?くすぶる燃えカスのリッド君」
 不意を突かれたのか、赤髪の彼――第23大隊副隊長リッド・シュールは僕の嫌味に眉をひそめた後、唯でさえ目つきの悪い目をさらに細くする。
「お前が行って来たらどうだ?今なら特大キャンプファイヤーも一緒にサービスしてやる」
 こういうやり取りをするたび、彼にはジョークの才能がないなと思う。全くジョークに聞こえないからだ。殺気を垂れ流しながら冗談を言うのは悪趣味なことこの上ない。
 冗談じゃないのかもしれないが。
「ここで火を出すと書類が燃えるよ。――ていうか何を書いてるのさ。僕はこないだ師団長の盆栽割った時の始末書なんだけど」
 一張羅を焦がされるのはたまったもんじゃないので、僕はしれっと話題を逸らすことに決めた。
「…」
 殺気を重ねてくるだろう、という僕の想像は裏切られ、彼は一転して曇天のように押し黙った。僕の瞳は困惑の色に揺れる。彼の目線は僕の目線から外れ、そして何も無いはずの天井の一角をひとしきり眺めた後、書類の上へと落とされた。
「…エタニア軍への潜入と情報収集に関する計画書だ」
「…は?」
 間抜けな吐息が漏れた。あまりにも馬鹿馬鹿しいその内容に。本当に彼はジョークが下手糞だ。そんなハイリスクハイリターンな任務の計画書に、今にもサインを臨もうとするなんざ、誰が見たって笑えない。それこそ、僕が見たって。
「面白いぜこの書類。命令されて書いているってのに、『敵対行動によって命を落とすのは自己責任』だとかご丁寧に記してやがる。これを作った奴は、国語が相当下手糞なんだろうな」
 彼の冷めた話し方が、妙に寂しい。まるで死人と喋っているような気分だ。今まで何度か味わってきたこの気分。そしてそれは確実に、喋れない死人を生み出してきた。
 舌が、乾く。
 リッドは書類から目を上げ、しかし僕の方には目をやらず、目の前の壁をただ見上げた。
「誰かがやらなきゃならねぇ。そして俺がやることになった。ただそれだけの話だ」
 分かっている。僕達は軍人で、今は戦争中だ。命を賭けるのは至極当然で、奇麗事にすら及ばない。仕事なんだから。
 僕は、心に決めた。そして、不器用ながら笑顔を搾り出す。
「しばらく、会えなくなるね」
 リッドは僕の台詞に珍しく笑った。悲しみを噛み締めながら。
「今生の別れかもしれんがな」
 やはりリッドは、冗談が下手糞だ。
「はは、縁起でもないことを――」
 ここで区切り、僕は

 全力で手刀を振り下ろした。

 寸分違わずリッドの首筋に命中したそれは、確実に彼の意識を分断する。ごとりと無機質な音を立てて、彼は絨毯の上にその身を横たえた。
「――言うなよな。全く」
 彼を気絶するほどに殴りつけた理由は、自分でもいまいち分からない。彼も、僕が会話のつなぎにでもする、一人の死人になるだけだった。そんなことは百も承知だった。
 けれど、思ってしまったんだ。それは、彼が会話のつなぎに僕の死を使っても、同じことじゃないのかって。
 僕は書類に向かって羽ペンを走らせる。それはしかしくだらない始末書なんかではなく、リッドの書類だ。最後のサインの欄に書かれるはずだったリッド・シュールという名前を無視して僕は一気にペンを走らせる。
 第23大隊長サーフィス・アバンダンと。
 僕はその書類を手に取り、床で眠るリッドを一瞥する。
「言ったろ?しばらく会えなくなるってさ」
 我ながら冗談が下手だなと思い、僕は部屋を、そしてアロパエル軍を後にした。





リッドって、第1師団に居なかったっけ?って思う人も居るでしょう。
この時点では、リッドは第12大隊長ではなく、第23大隊副隊長でした。
ゲーム中では語られないので知らなくても問題ありません。
[PR]
by hisaya_rikudo | 2009-04-30 18:27 | 小説

Godius小説~酒場の一角で佇む蕾は~後編

頬がほんのり上気したリリルの口のすべりは、しかし肝心なところを漏らしてくれない。彼のどこがどう好きで、どういう瞬間に惚れたかとか、そういうことはいくらでも惚気てくれるのだが、私たちが最も知りたい彼の所在や名前、職業等になると途端に口を閉ざした。
「で、結局誰なのさぁ」
最初は乗り気で質問攻めだった那魅も、頑として口を割らないリリルに辟易としてきたようで、空の徳利を摘んでぷらぷらと弄んでは、雫だけが残るお猪口を舐めるように呷っていた。
リリルは悩むように、少し首を傾げたあと、渋々と切り出した。
「――じゃあ、明日一緒に彼を見に行こうか」



そんな展開で訪れたのはパゴール掲示板通りの商店街だ。数々の露店と店舗がひしめき合うこの通りは、パゴール中央広場の掲示板から北に伸びる道で、日中の騒がしさを表現するに、喧騒の二文字では全くもって満ち足りない。日用雑貨から戦闘の必需品まで幅広く売り買いを行うこの通りはパゴールの活気を象徴する中心部と言って差し支えないだろう。
「ふあー。太陽が気持ちいいねぇ」
私はこの喧騒に乗せるように声を上げて、青く広がる空へ両手を挙げた。
「はー。頭ががんがんするねぇ」
那魅はこの喧騒を恨むように呟いて、億劫そうに長い銀髪を掻き揚げた。
飲みすぎなんだよ。とは口には出さなかった。二日酔いの酔っ払いほどたちの悪いものはない。
「貴女は飲みすぎなのよ」
そんな私の気遣いを知ってか知らずか、リリルはわざわざ口に出してくれる。ありがとうございますリリルシール様。多分この嫌味は通じないだろうからまたまた私は苦笑いを浮かべただけで口をあけなかった。
「よく存じ上げておりますのでいちいち言わないでください。――それで、リリの想い人ってここに居るの?」
「そうよ。もうすこし先に居るわ」
その台詞に那魅は少し元気になって笑顔を浮かべる。行きますかと言わんばかりに足を踏み出した。
待ち合わせでもしているのだろうかと最初は思ったが、ここは人数が多すぎて待ち合わせに適してるとは思えない。気になるのは彼女が昨日言った「見に行く」という台詞だ。現時点では「会わせる」といえないほど親密な仲ではないということなのだろうか。だったら、この界隈の商売人?でもそんな人の中でこの一風変わった女の子の目に留まるような人が居たっけ――
「ほら、あそこ」
その台詞に私と那魅は電光石火で反応する。
彼女の掲げた指の先には、丁寧に陳列された野菜を爽やかに売りさばく男性があった。年のころは30半ばほどだろうか。大きな声で客を呼び込み、売り買いをてきぱきとこなす中にも笑顔を忘れない様は昨日今日の商売歴でないことをまざまざと見せている。すこし褐色に焼けた肌が、笑顔を引き立てていた。確かにかっこいい彼は、この界隈で買い物をする客なら大概知っている。八百屋“エルマ”の店主、リュート。思わず目をやる眉目秀麗な看板店主もさることながら、良質な野菜を提供する彼の店の評判は良い。新進気鋭の八百屋だと評判だ。
「ちょっとまってよ。リリ、ほんとに彼なの?リュートさんなの?」
周知と言われたこの事実を那魅も当然知っておきながら、彼女の表情は不安と戸惑いで一杯だ。
「そうよ。今、私の好きな人」
声をわずかも揺らさずリリルは自信を持って応える。その台詞にますます那魅の表情は理解不能の色に染まり、二日酔いの気色を駆逐していく。
私は那魅が困惑してる理由を知っている。だって彼は――
「彼、結婚してるじゃない!」
ここまで知っている私たちなら、当然彼の店“エルマ”の名が彼の妻エルミーナの愛称から来てることを知っている。ついこの間、5周年のお祝いをやっていたとギルドの仲間に聞いた。一緒に店頭に立つことも多く、その仲睦まじさも店の人気の一つだ。
「知ってるわ。それくらい」
それがどうかしたの、とでも言いたげに見えるほど、目の色は冷ややかだ。那魅はその返答が信じられないように、口をぱくぱくさせていた。私は落ち着いて詰まらせないよう台詞を吐き出す。
「確かに、その人を好きになるのに、結婚してるとかしてないとか関係ないよね」
「関係大有りでしょっっ!」
私の小声の意見は那魅の大声に霧散された。怒号のような那魅の大声は、周囲のお客を動揺に巻き込む。那魅は注目されている様子に気づいて、慌てて居住まいを正した。そして過剰なほど小声になった那魅に、私とリリルは耳をそばだてる。
「だって、好きになるってことは一緒に居たいってことでしょ?抱かれたいってことでしょ?結婚してる相手にそれを求めるのはすごく大変な――」
「別に求めてないわ、そんなこと」
那魅の小声を、リリは鋭利な言葉ですぱりと切り落とす。続けざまに飛び出す台詞も、彼女らしく鋭利で冷ややかで、そしてどこか寂しげだ。
「久しぶりに抱いた好きだという気持ちだもの。私はそれを大事にしたいだけ。彼のことが好きだから、彼の幸せな今の生活を邪魔するつもりも壊すつもりもないわ。そういう愛の形もあるんじゃないかしら」
私は何もいえなかった。そういう考え方があるんだなと驚かされる一方だった。那魅も同じようで、喉から出したいけれど出せない言葉にもがいて、うめいている。リリルは二の句の次げない私たちを一瞥すると
「――お野菜買ってくるわ。待ってて」
ローブをはためかせて、愛する彼の元へ歩いていった。



「やっぱり、私には納得できない。理解もできないししたくもない」
リリルの家で水炊きを囲んで乾杯した開口一番、那魅がそう漏らした。訊くまでもなく、今日のことだろう。私はやれやれという思いで、那魅を嗜める。
「恋愛の形は人それぞれでしょ。納得できないこともあるよ」
「恋愛の形が人それぞれ!?だったらそんなもの存在しないも同じじゃない!」
私の言い方が勘に触ったのか、那魅はグラスの底をテーブルにたたきつけた。鈍い音がやけに鋭く自己主張する。まだほとんど飲んでもいないのに、もう酔っているのだろうか。
「あたしは今まで、必死に恋愛してきたよ!そりゃ意見が食い違うことも、裏切られることもあったけど、挫けず恋愛してきた。それはその人のそばに居るのが幸せだったから!安らぎだったから!リリはそうじゃないっていうの?私は違うって?あたしからみれば、そんなの恋愛じゃない!おままごとだよっ!」
「那魅!言いすぎだよ!」
那魅の声はもはや怒号に等しい。どこから沸いたのか見当もつかない彼女の熱い激昂を、リリルは冷たい憤激で押し返す。
「私からしたら、自分の幸せばかりに目が行って、相手の幸せに目を向けない貴女の方がおままごとよ。相手の笑顔を、相手の幸せを邪魔せず手助けするのが本当に相手を思う心じゃないの?貴女の独りよがりな恋愛が、常に相手を傷つけてきて、それが自分に跳ね返ってきたっていい加減気づいたらどうなの!」
湯気を噴く水炊きも豊穣な香りを立てるお酒も眼中になく、二人は一触即発の状態だ。放っておいたらお互いに武器を抜きかねない。ああもう、楽しいリリルの恋愛観察の予定だったのになんでこんなことになっちゃったんだろうか。
私はもうやけくそだった。
「あー!美味しいなぁ水炊き!」
一等でかい声を張り上げて、熱々の水炊きの味を主張する。臨戦状態の那魅とリリルは、ぽかんと口を開けて呆気に取られていた。
「リメ、今それどころじゃ――」
「二人がぎゃーぎゃー言ってるからもうかなり煮立ってるよ。ほら那魅食べな。野菜もお肉も美味しいよ」
那魅は無理矢理の私に戸惑いながら箸をつける。おいしい、と呟いてはいたが、困惑気味なその顔を見る限り、味がわかっているようには思えなかった。
「リメ、ここははっきりさせ――」
「ほら、リリル。リュートさんの作ってくれた野菜を無駄にはできないよね」
うっ、と言葉に詰まり、リリルは渋々箸をつける。それから二人の間には鍋の煮立つ音以外、静寂が流れ続けていた。
お猪口を呷った那魅が、思い出したようにゆっくりと口を開ける。
「――昼間、リリの話を聞いたとき、すごくショックだったんだ。あたしの今までの恋愛観が全部否定された気がして。あたしのしてきたことって何だったんだろうって。そしたら感情がもう抑えられなくて・・・」
うぅぅと呻いたあとに那魅の目尻から雫がこぼれた。抑えきれない激情が涙に変わってしまったらしい。それを見て、リリルも箸を置く。
「私もそばに居られなくて平気なわけじゃないの。すごく胸が苦しくなる夜もある。その度に、近づいていけないのは相手のためだからと言い訳して――いつもストレートに表現できる那魅が羨ましかった。だから売り言葉に買い言葉でつい・・・」
リリルも引きずられたように目を潤ませる。この流れでお互いから出てくる言葉は一つだ。
「「ごめんなさい」」
この後はいつも通りのどんちゃん騒ぎだ。リュートさんについての情報交換や、那魅の恋愛経験談。また凝りもせず同じ話を繰り返す那魅を、しかし今日のリリルはきつい言い方もせず、頷いていた。多少、面倒そうではあったけれど。
二人の恋愛観のわだかまりも解け、お互いの意見を交流しあった結果、良い方向に向かいつつあるようだ。気軽に談笑するリリルとリュートさんもよく見かけるようになった。

しかし、今回で一つだけ最大の不満がある。
私、空気じゃん。
――はぁ、恋愛したい。
饅頭でも落ちてないかなと、思わず下を向いて歩いてしまう私だった。


おわり



いやはや。だいぶ前に思いついた続きネタをやっと消化できて万歳。
青臭い話で楽しいです。最近恋愛トラブルあったからちょっとストレス発散になったかな。


[PR]
by hisaya_rikudo | 2008-06-10 21:05 | 小説

Godius小説~酒場の一角で佇む蕾は~前編

「そりゃあね、あたしも悪いところはあるよ。でもあたしが怒るのも分かるでしょ?なのにあいつときたら謝りもしないしさ。だから――」
思いっきり張り倒したわけよ。
私の目の前の席でまくし立てる銀髪の女性は、酒臭い息と共に自信満々の台詞を吐き出した。私は嘆息して、嫌々ながら「それで?」と先を促す。何故嫌々なのかというと――
「そしたらあの男、何も言わずにパゴールから出て行っちゃったのよ!私はあいつのためを思って手をあげたのよ?それなのにひどい裏切りだと思わない?一言も言わずに私の前から消えるなんて!」
ほんっとに信じられないわ!
彼女は“予想通り”テーブルに手を叩きつける。ここまで予想通りだと、大道芸を見ているかのようだ。
「那魅、もうちょっと静かに飲んでくれないかしら」
私の左側で静かに酒を嗜む紫の頭髪の女性は、切れ長の目を鋭く光らせる。那魅と呼ばれた五月蝿い彼女は、渋々居住まいを正して口を尖らせた。
ここはベルク首都パゴールの南区シャルル通り3番地にある居酒屋“ルーイン”の一角だ。久しぶりに首都に寄った私は、奇遇にも旧友二人に出会い、久しぶりの再会を酒を交えて祝うことにしたのだ。
「リリはもっと美味しそうに飲みなよ」
那魅はそう呟いて、徳利の中身をお猪口に移さずぐいっとあおる。飲みっぷりがいいことと美味しそうに飲むということは違うと思うんだけれど。
「貴女が同じ話を延々とする癖を直してくれたら、きっとお酒が美味しくなるわ」
リリと呼ばれた彼女――リリルシールは意地悪く笑いながら、お猪口の酒に口付けた。
先ほど私が嫌々だと言ったのは、リリルの指摘どおり那魅が同じ話ばっかりしているからに他ならない。しかも今回の「男に逃げられた話」は、ついこの間のことではなく3年も前の冬の話だ。それを再会して酒を飲むたび毎回聞かされるのだ。たまに酒を飲んで話を聞かされる私ですら嫌々なのだから、同じギルドに居るリリルはたまったものじゃないだろう。そろそろ爆発してもおかしくない。
ひょっとしたらいつも爆発しているのかもしれないけれど。
しかし先に爆発したのは、那魅の方だった。
「分かってるわよ!3年も前の話だって言いたいんでしょ!でもね、私も頑張った恋愛なのよ!大事な思い出も一杯あるのよ!満たされなかった気持ちを愚痴ったっていいじゃない!」
テーブルに乗り出して大声で喚く那魅に、店内の視線は釘付けだ。昔馴染みの店長だけが素知らぬ顔で鶏肉を焼いている。またか、と思っているのだろう。
居た堪れなくなって、私は口を開いた。
「まぁまぁ、落ち着いて。リリルもずっと静かにしてるから那魅が喋るんだよ」
「じゃあ私の話も聞いてくれる?」
私の言葉尻を取って、リリルが顔を上げた。獰猛な猟犬のように喉を鳴らす那魅を落ち着かせながら「ええ、どうぞ」と私は生返事を返す。
そんな中でもリリルの声は落ち着いていて、澄んでいた。
「好きな人が出来たの」
ああそう、好きな人ね。――って
「ええええええええ!?」
思わず大声が出てしまった。那魅もあまりの驚きに怒りを忘れて呆然としている。手に持っていた箸が床に転がり落ちて孤独な声を上げた。
「――変かしら?」
変です。とは言えなかった。だがやはり変だ。美人でも結構とっつきにくい彼女に浮いた話など今までさらさら無く、男嫌いなのじゃないのかとまで思えた彼女に好きな男が出来たなんて。
「変よ、変。拾い食いでもした?」
デリカシーも遠慮も無い返事は那魅だ。拾い食いが原因で恋が芽生えるのなら、那魅自身が拾い食いをすればいいのに。
「失礼な人ね。話すのやめようかしら」
「ごめんごめん。お願いだから話して。何でも聞くわ」
楽しそうに身を乗り出す那魅に、さっきまでの怒りは欠片も無い。安堵もそこそこに、リリルが始めた話に私も聞き入ることにした。
長い夜になりそうなので先に自己紹介をしておこう。私の名前はリーメル・シェホフ。魔導師ギルドとベルク正教会両方から破門されたはぐれSage、それが私だ。
しかし、恋愛かぁ。私も拾い食いしてみようかな。


ずいぶん前に書いたガディウスSSをアップ。
今更アップする気になったのは、これの続きを書こうと思ったからです。
がんばって書くのでしばしおまちを(゚ロ゚
[PR]
by hisaya_rikudo | 2008-06-10 19:19 | 小説

Godius小説~変わりつつある気持ち・変えなきゃならない現実~ エピローグ

 早朝から、太陽は仕事熱心だ。その勤勉さに、私は笑顔で応える。
 エイドスでの戦闘から一週間。私達は4日前キャズウェルに到着して、久しぶりの余暇を過ごしている。町の一角にある我らがギルド“にゃはは”用宿舎の軒先で、私は日課の水遣りを済ませていた。ブラウスがすれただけで激痛を発していた背中も、ここ数日の治療のおかげで回復に向かっている。――それでもまだ痛いけど。その背中の小さな刺激を無視して、私は思い切り全身を伸ばした。喉の奥に溜まった欠伸を押し出して、全身を新鮮な空気で満たす。心地良い満足感が、日の光と共に胸の奥を暖めた。
 「のどかな朝だ。本当に」
 以前の私は、自分がこの雰囲気に同調してしまうことに不安と嫌悪を覚えていた。同調することで、力を望んだ決意を、生きる意味を放棄してしまいそうな気がして怖かったのだ。しかしそのような恐怖を感じておきながら、一方では自分の決意がどれだけ無意味かを頭の中で反芻して、放棄したがっていた。意固地な正義感と、生への妥協で板ばさみになる日々。その窮屈な世界から手を引いてくれたのが、まさかたった一輪の花だとは。
 「すごいなぁ、お前」
 少し笑って、水滴で輝くヘンリエッタを撫でた。少し背の伸びたその身体は、撫でる手に命の力を主張する。
 またも先達の言葉を借りるなら「死んだ親より、生きている恋人」とでも言ってみよう。聊か薄情にも取れる言葉だが、そもそも親だろうが子だろうが死人に対してできることなど何も無いのだ。だったら自分と大切な人の命のために生きるのは当然とも言える。命を使う方向性を変えてくれたヘンリエッタは、私にとってもっとも大切な人だ。――しかしこの年で植物が恋人では、寂しい負け犬女に思えて余り好ましくないな。
 どうしたものか、などと悩んでいると背後のドアが開く音がした。おはよう、と声をかけると、彼女は長い金髪を揺らして眠そうに微笑んだ。ああ、もう一人、大切な人が居たのを忘れてた。
 「珍しく早いね、ヘンル」
 休暇中の彼女は、昼前に寝癖を揺らしながら部屋から出てくるのが常だったが、今日は早く起きられたようだ。しかし赤いパジャマを着て、サンダルを履いているその姿は明らかに寝起きだ。彼女は眠そうに目をこする。
 「リメさんが水遣りしてるって聞いたから私もさせてもらおうと――」
 「あんたは遣りすぎるから駄目」
 私がにべもなく言い放つと、ヘンルはうぅと少しうめいて、そのまま眠そうに欠伸をした。ほんとに眠いんだなこいつ。
 彼女の一言が無かったら、私はこののどかな朝を迎えることが出来なかっただろう。油の足らない歯車のような、目の粗いのこぎりのような朝を迎えていただろう。本当に感謝してる。こういう人のためにこそ、命を使うべきだと思ってる。――ヘンリエッタに水を遣っていいかどうかはまた別の話だけど。
 「リメさん」
 ヘンルは眠そうな目を開けて私を真っ直ぐ見ていた。相当頑張っている様子が見て取れてちょっと笑いそうになってしまう。
 「園芸楽しい?」
 「楽しいよ!」
 私は自信たっぷりに言い放った。喜びと、感謝を乗せて言い放った。顎の力が抜けて、頬が少しつりあがる。目元が緩んで、眉が弓なりに山を作る。今はもう、綺麗に笑える。これを取り戻すことが出来たのも、ヘンリエッタに会えたのも全部ヘンルのおかげ。それなのに。
 「ありがとう」
 なんであんたがありがとうって言うのさ。しかもそんな幸せそうな笑顔浮かべて。それはこっちの台詞だっての。あ、やばい。今ちょっと「自分が男だったらなー」とか思っちゃったじゃないか。私はノーマルだってば。勘違いさせるなバカ。
 私がそうやってあたふたしてると、ヘンルは急に表情を暗く沈めた。その急な豹変振りに私は首を傾げる。
 「寂しくなるね」
 ――は?
 「お店開いたら連絡してね。ちゃんと行くから」
 いやちょっと待て。
 私は表情を強張らせて、平手をヘンルの顔の前に掲げた。
 「何の話をしてる」
 まさにきょとんという単語が似合うほど、ヘンルは目を丸くした。
 「だって、ギルド辞めて園芸屋始めるんじゃないの?」
 「誰がそんなこと言った」
 私は確かに、戦いに身を置く環境を懸念していた。けれどそれは、目的の無い殺戮に成り下がりつつある状況を嫌っただけであって、戦いそのものを否定的に考えたわけじゃない。
 「え。え?」
 今私は守らなければならないものが出来た。大切な人が出来た。養うべき子が出来た。そのためにいくつもの命を奪うことになっても、それはきっと無意味じゃない。少なくとも、これまでよりは。 
 「ヘンリエッタを養うために、もっと多くの植物を育てるためにお金が要るし、ヘンルのお守りもしなきゃならないし。まだまだ当分、抜けるなんてできないさ」
 「ほんとに!?」
 ヘンルは笑顔を取り戻して大声を上げた。その嬉しそうな仕草が、私にもたまらなく嬉しい。
 「うん。だから――」
 私は少し照れ臭く感じつつ、ゆっくりと右手を差し出す。
 「これからも、よろしく」
 やっと始まりつつある本当の私の旅。その旅路を、勤勉な太陽が拍手で祝福していた。

 なお、子供のように泣きじゃくって飛びついてきたヘンルを、光速ではたき落としたのは言うまでもない。

 (終)



やっと終わりました・・・突発的にやるとかほざいた割りにはとんでもなく長い企画になってしまった・・・もう二度とやるもんかと思う今日この頃陸堂です。
文章が余りにも酷いとか、戦闘にだけ力入れすぎとか感じたことは一杯あるんですが、一番思ったことは「タイトルだけ一人歩きしてる」でした。なんか異様にタイトルだけ重たく感じます。鞄に無駄な教科書つめて通学していた高校生時代の気分です。思い出すだけで超肩いてぇ。
まぁリーメルが晴れやかな女の子(?)になれたということで勘弁してください。

読んでくださった方々、ありがとうございました。
陸でした。
[PR]
by hisaya_rikudo | 2006-09-27 22:22 | 小説

Godius小説~変わりつつある気持ち・変えなきゃならない現実~ 後編

 宿屋に駆けつけたのは、一刻も早く二人に出会い、体勢を整えるため。二人がまだ来ていないかもしれないということは、当然想定の範疇にあった。しかし、明々とマジェンタに染まる宿屋は全くの想定外だ。レンガと木で出来た星のきらめき亭は今や星々ではなく、熱波を轟かせる火炎の軍勢にその身を明け渡していた。間近で宿屋の女将が膝を崩してうな垂れる。恰幅のよかった風体は、今やその面影もない。あまりにも非情な人生は、女将に一匹の犬を与える。毒の牙を持ち、狂った瞳で飛び掛るケルベロスを。
 「逃げて!」
 野良犬の頭を掌底で叩き落とし、懐から抜いたダガーを脳天に突き立てる。脳漿がじゅくじゅくと嫌な音を立てた。死の危機が迫ったというのに、女将は熱波に焼かれた顔を呆けさせ、立ち上がろうとしない。宝の宿屋が焼け落ちたショックで、生に絶望しているのだ。大切に営んできたであろう宿屋が燃え落ちた今、そう感じるのも無理もない――

 無理もない?
 本当にそうなの?

 じゃあ何故私の胸は、こんなに熱いの――!?

 振り切った手はしびれとともに乾いた音を立てる。同時に、女将の顔が右に振られ、右頬が赤く染まった。
 「生きるの!何がなんでも!絶望してる暇があるほど、命に余裕なんかない!」
 逃げて!渾身の叫びが喉から迸る。頬の痛みか、若しくは私の絶叫が老婆の瞳に色を戻し、膝に強靭な力を与えた。
 今のは、今までの私には無い言葉だった。命に悩みながら、命を軽んじてきて、仕方ないなどと諦めて、命を蹂躙してきた私の台詞じゃなかった。これを与えてくれた人が誰だか、私は知っている。小さな緑の身体に、精一杯に命を秘めた彼女。今炎に蹂躙されつつある、私のヘンリエッタ!
 「たゆたえ、盾なるもの!宝氷は汝が御手より承らん!アイスシールド!」
 詠唱しながら唸りをあげ、崩れかけたドアに体当たる。容易くぶち破り、ロビーへと転がり込んだ。身体の周りを巡る氷球が火炎を遠ざけ、周りの温度を下げる。しかし、広がり続けるばかりの炎に、いつ効果が切れるか分からない。焦りと遮断しきれない熱波で、額から、頬から、うなじから、汗が滴り落ちる。異常に薄い呼気が体力を低下させ、ロビーを舞い踊る黒煙がめまいを引きこした。手探りで階段に足をかけ、昇ろうとしたそのとき。
 獰猛な唸り声が、口を大きく開けて階段の最上段から飛び掛ってくる。私は気力だけで飛びのいて距離をとり、その姿を確認して絶句した。大柄な体躯は赤く、犬の形状でありながら熊を連想させる。鋭い牙が見え隠れする口の端はよだれの変わりに溶岩を滴らせ、前足も後ろ足も、赤く輝く炎に包まれていた。その名はフレイムハウンド。本来なら洞窟の奥深くで格下のモンスターを捕食しているはずだ。この東南部には生息するなんて聞いたことも無ければ、人里に出てくることは前代未聞。異常に炎の広がりが早いとは思っていたがこんな化け物が居るのならそれも頷ける。集中が切れ掛かったアイスシールドが、熱波を防ぎきれなくなってきている。呼吸はますます切迫し、めまいはさらに深刻になる。だからといって、この赤い熊が待ってくれるわけはない。ケルベロスとは比較にならないプレッシャーを撒き散らしながら、こちらに飛び掛る。私はそれを紙一重で避け、至近距離からアイスミサイルを撃ち込む。はずだった。
 「熱っ!」
 開いた口腔から迸る至極の火炎は私のシールドを悉く吹き飛ばす。前髪はちりちりと音を立て、纏ったマントはぼろぼろに黒く焦げあがり――息が!息ができない!
 シールドを失った私に、熱波が津波のように襲い掛かり、呼吸を完全に阻害された。目の前も見えないまま私は急激に押し倒された。かろうじて開いた右目は、フレイムハウンドの大顎を捉えている。ぼたぼたと垂れる溶岩は、私の顔の横で床に穴を開けた。私はこのまま、こいつに食われるんだろう。大顎を開けて、私を捕食しようとするのは目に見えている。だったら――
 左手一本くれてやる!
 「集え、剣なるもの!」
 大きく上げた口に向かい、私は一瞬速く左手を喉の奥まで突っ込んだ。焼ける腕の痛みを気にしてる余裕なんて無い!
 「烈氷は汝が御手より承らん!アイスソード!」
 フレイムハウンドの喉の奥で凝固する圧倒的な冷気は強靭な氷の剣を形作り、そのまま赤犬の延髄を貫いた。フレイムハウンドはカエルの拉げたような声を喉の置くから搾り出して、全身を小刻みに震わせる。どうせくれてやった腕だ、最後までもらっていけ!
 「司るは氷結の命!しじまなる時を刻み込め!アイスボール!」
 あふれ出る氷結の空間に、赤犬の体内は小さすぎた。大柄な体躯は断末魔の悲鳴も許されず内部から爆発する。その全てが瞬間で冷却され、燃え上がっていたはずの赤い肉片は、カキ氷のシャワーとなって燃えるロビーに散らばった。涼しげなのもつかの間、背中には先ほどと変わらぬ熱波と圧力を強かに感じて――これは、違う!
 声が!出ない!
 背中から全ての感覚が消えうせた。脳裏で過剰にリフレインする熱量が、絶え間ない絶叫を私の口から搾り出す。もう一匹いたフレイムハウンドが私の背中に飛び移ってきたのだ。耳元でぐるぐると唸るその声までもが異常に熱い!背中の皮が爛れる音が心臓からつま先まで響く!
 
 死ぬ、かな。
 
 ――そんな、馬鹿な、話が、あるか!
 「瞬け!青銀(あおがね)の三日月!」
 魂の奥底から引っ張り出した命への渇望が、絶叫を止め、暴れる氷を呼び出す。
 「氷帝(エチリン)の抱擁は我が手にあり!」
 全身から迸るは、舞い踊る妖精だと言われた氷属性最上級魔法。
 「アイスウェーブ!」
 私を中心に舞い踊る氷の妖精は、あらゆる熱気をずたずたに引き裂いた。その氷の羽一枚一枚がフレイムハウンドの全身をむさぼり、食い散らかす。傷口から凍りつき、凍りついた傷がさらに切り裂かれ、毛並みの良い身体は一瞬にして無残なぼろ雑巾となり、氷結して砕け散った。部屋を渦巻いていた熱気も、壁を行進し続けていた炎も、熱源の消滅とアイスウェーブの効力で落ち着きを取り戻してきている。だが、呼気と眩暈が正常に戻っても、身体にうけた甚大なダメージが、私の能力を完全にそぎ落としていた。
 「あとちょっと、だから。もうすこしだけ頑張ろう」
 焼け石に水の回復魔法を魔力の続く限りかけて、私はよろよろと階段を登った。黒こげて、まだ熱を残している壁によりかかりながら、2階の奥の私達が取った部屋へ移動し、ドアを開ける。部屋のダメージは思ったよりも少なく、テーブルの上に置かれたヘンリエッタも、あれほどの騒ぎがあっても緑の身体をぴんと伸ばしていた。「気付かなかった」とでも言っているようだ。私は安堵し、そのために崩れる膝を止めることが出来なかった。
 「よかった。本当に」
 以前の私なら、何を馬鹿なことを、と一笑に伏せていただろう。空の宝箱を大事に抱えて、大切なものを守っているつもりになって、虚無感に浸って悲劇のヒロインを演じていた私では。
 大切な物は作り上げること、守ることが大事だと彼女は教えてくれた。まさか死にかける羽目になるとは夢にも思って居なかったけれど。 
 「まぁ、貴重な体験よね」
 気丈に笑って、私は震える膝で無理矢理立ち上がる。何時崩れるともしれないこの場を早く離れないと。瓦礫を支えにして、左手で鉢を抱え込み、立ち上がった。埃と灰を浴びて真っ白になったテーブルに身体を預け、出口へ目を向ける。
 急に、悪寒が走った。火傷した背中に、風が触れたのかもしれない。爛れた皮膚は、僅かな空気の流れにも敏感で早めに治療しないとこめかみに皺ができそう――
 「嘘、でしょ――」
 絶望が混じる呟きは、巨大な叫び声がかき消した。私の目の前にある青い顔はびっしりと固い鱗で覆われており、緑のたてがみと、白い角が優雅ともいえるほどに飾られている。だが何より圧巻なのはその体躯だ。この2階の崩れた壁から顔を出すそれは、私の何十倍もの全長を持つモンスター。氷帝の竜と呼ばれ、あらゆる氷魔法を受け付けない洞穴の支配者。その名はキングウォーム。
 勝てるわけがない。魔力も底を尽き、身体も満足に動かない今の状況じゃ、つつかれただけで死んでしまう。神様、何が悪かったっていうの?二人を待たずに勝手に行動したこと?教会を破門された私には、彼女が不相応だとでも?どちらにせよ、貴方が死ねと云うのなら、全力で生きてから死んでやります!
 キングウォームの頭が唸り声を上げて私へと突っ込む。私はヘンリエッタを庇うように抱いて、訪れる死の衝撃を前に目を閉じた。必ず、彼女だけは守り抜くと誓って。
 死の訪れは、しかしやけに遅い。金属の打撃音が聞こえた気がして――
 「ごめん、遅れた」
 「ザント!」
 筋骨隆々の腕でバーブスピアを携える長身の女性は、間違いなく砂時計の似合う彼女だった。挨拶もつかの間、キングウォームは耳朶を揺るがす叫びを上げる。宿屋を崩しかねない力のある叫びだ。恐らく食事を邪魔されたことに怒り狂っているのだろう。しかし、巨大な竜の絶叫を見てもザントの身体は微塵も揺るがない。それどころかその顔は興奮に引きつり、笑っているかのようだった。
 「リーメル、ブレスと火!」
 返答もせず、私は残りの魔力を、エンチャントに込める。神の祝福で身体能力を向上させ、炎王(エブリン)の命で槍に炎を灯した。ザントの腕の筋肉がひときわ盛り上がる。それを知ってか知らずか、キングウォームは若干首をひき一撃に備えた。ザントは腰溜めに構え、つりあがった瞳を殺意で染める。
 キングウォームの首は予備動作もなく、弾丸のごとき勢いで飛んできた。一撃で宿屋の2階ごと弾かれかねない勢いだ。しかし、ザントの一撃が異常に素早い。体躯を回転させ遠心力を利用した斬撃は、漆喰の壁を引き裂き、柱を叩き切り、なおも加速してキングウォームの首に食らいつく。飛び散る体液で部屋が緑に染まり、部屋の中で迸る絶叫が、鼓膜を一瞬だけ麻痺させた。半ばまで食い込んだ槍は、キングウォームが暴れたために炎を残したままずるりと抜け落ちる。
 「ヘンル!」
 ザントの叫びに呼応して、流れ出るのは柔らかなフルートの旋律。何時の間にか部屋の隅に現れたヘンルーダは、深い森を詠うような曲を、銀色のフルートから奏でる。この曲はよく知っている。タイトルは不治(アンヒール)。その名の通り、モンスターの再生能力をストップさせてしまう死の音色だ。キングウォームの傷口は、槍に宿った炎が燃え移り、派手に侵食されはじめた。傷口を駆け巡る痛みに弱弱しい悲鳴を上げて、きびすをかえすキングウォーム。
 「逃すか」
 小さく殺意を吐き出して、ザントは投槍の姿勢を取る。全身をバネのように引き絞り、筋肉の撓む音が聞こえるほど力を溜め込んで――― 一気に開放した。異常なスピードで射出された槍は、まるで砲撃のように炎で赤く輝いた。人間業とは思えぬほど寸分たがわず傷口に命中し、威力を爆発させる。キングウォームの首は捻り切られたように飛び上がり、胴体は力なく倒れ、砂地に緑の体液をぶちまけた。
 これが契機になったか、モンスターの気配が一気に村から引いていく。あたりには平穏が訪れ、ザントは疲れたように溜息を吐き出し、ヘンルは柔らかな笑顔で私を見やった。
 「二人とも、ごめん。そしてありがとう」
 本来なら上がるはずの村人からの歓声は無い。しかしそれでも、二人への感謝と、命を守れたことの喜びがここ最近で一番の幸せを運んできてくれた気がした。
 私の謝罪を聞いて、ヘンルは思い出したように眉間に皺を寄せる。あ、これは小言が来るな。私は思わず、大声で笑ってしまった。
 「笑ってる場合じゃないでしょ!危険なのに一人で突っ込んで――」
 「ごめん、ほんとごめん。だから――」
 今はとにかく、寝させて。
 薄れゆく意識の中、私は久しぶりに、綺麗に笑えた気がした。


おひさしぶりの更新です。陸堂です。
後編ですが、ここで終わりではありません( ´・ω・`)
ちょっと予想以上に戦闘ががんばりすぎまして、エピローグまで盛り込めませんでした。
後日エピローグをアップしますのでそれで終わりとなります。
どうかもう少々お付き合いください。

陸でした
[PR]
by hisaya_rikudo | 2006-08-20 23:36 | 小説

Godius小説~変わりつつある気持ち・変えなきゃならない現実~ 中編

 いざ始めてみると予想通り、いや予想以上に大変だった。
 首都とキャズウェルを結ぶ陸路を旅する最中の私が園芸をやるには、可搬式の鉢植えが必要だ。しかし、持ち運べる物はどうしてもサイズが非常に小さくなってしまう。となると、育てる花も小さいものになってしまい、その扱いも非常にデリケートなものになってしまうのだ。園芸初心者の私が、デリケートな植物を育てられる自信などあるはずがない。かといって、大きくなりそうな植物を小さい鉢植えで育てるのも可哀想だ。そういったことを考慮して私が選んだ花は“ヘンリエッタ”。小さな釣鐘状の青い花を咲かす多年草だ。その花が夜にはぼんやりと青白く光ることから“小人のランプ”などとも呼ばれている。早速立ち寄った小さな村、カズンの雑貨屋で小さな鉢植え、ジョウロ、堆肥、そしてヘンリエッタの球根を買って、小さな妖精の日用品を作り上げることにしたのだ。
 本当に大変だったのはここから。誰かさん1号は一日に二回でいいというのに、私の目を盗んではジョウロで水をやろうとするし、誰かさん2号は植えたその翌日に「芽が出ないじゃないか」とか言いながら堆肥を乱暴に振りかけるし。鉢をひっくり返しそうになったり、芽が出てないと掘り起こされそうになったりなど、冷や汗をかいた瞬間なら枚挙に暇がない。二人のお守りには、非常に苦労させられた。
 とはいえ、園芸が大変でなかったわけではない。最初使った土は水はけが悪く、一日中水溜りが出来たままだったり、日当たりの良い場所で放置しすぎて土の水分が飛んでしまっていたり、逆に日に当て忘れてたり――慣れない挑戦にいくつもミスを繰り返しながらも、植えてから7日目の朝、とうとう緑の芽が小さな大地から顔をのぞかせてくれた。雑草と見紛いそうになるその小柄な姿は、ぴんと背筋を伸ばし、生き生きとしていて、私は思わず頬が綻んだ。その喜びがあってかそれからは大きなミスもなく、誰かさん1号2号の妨害も撥ね退けて、この緑の子供の面倒を看ることができた。
 そうするうちに今朝方到着したのは、キャズウェルから二日の距離にあるこの村、エイドス。東南部特有の蒸し暑い気候で青々と育った木々が村の周りを囲っており、その緑を背景にシックな民家が映える。ゆらゆらと歩く馬や、はしゃぎまわる子供、鍬を振り上げる老人らが村ののどかさを演出していた。ここが今回の旅の最後の中継地点だ。ここを越えて二日ほど馬車で移動すれば、首都ほどではないにしろ、漁業と輸送、土木と林業で栄えた街キャズウェルに到着する。キャズウェルに着けば、旅も一区切りついたと言えるだろう。ゆっくりと身体を休めることが出来る。私も、ヘンルも、ザントも、そしてこの子も。
 こじんまりとしたレンガ造りの宿場「星のゆらめき亭」に届けを済ますと、私はよく日の当たる窓際に鉢植えを置いて、可愛らしい葉っぱを指で少し撫でた。張りのある手触りを感じて、ちょっと嬉しくなる。
「じゃあ、私達でかけてくるから」
 ザントはかねてから旅着のマントを新調したいと言っていた。ヘンルは言わずもがな、食料調達だ。きっと服屋ではヘンルがザントの服選びに首を突っ込んで騒がしくなることだろう。そして市場では好きな食べ物ばかり選ぼうとするザントのわがままに、ヘンルは困るのだろう。思わずこみ上げた笑いを喉の奥へ飲み込んで
「ああ、行ってらっしゃい。私も少ししたら出かけるよ」
 窓際の壁にもたれかかって軽く手を挙げた。
「戸締り忘れずにね」
 手を振るヘンルはザントと共に扉の向こうへと消える。ふ、と小さく吐息を空へ投げ出して、私は壁にもたれたままずるずると腰を下ろした。板張りの床はちょっとだけひんやりとして気持ちがいい。何気なく瞳を閉じて、私は久しぶりに思考の海へと飛び込んだ。
 園芸を始めたことで、何かが掴めた気はしない。確かに楽しくはある。けれどそれは、思考に浸る時間を薄めているだけのことで、生きることに対しての根本的な虚しさは、解消されるどころか増す一方だ。生き生きとした芽を見るたびに純粋な喜ばしさは、暗い嫉妬心に削られてゆき、またそれが自分にも慰めになっているあたりがなんとも救いようがない。どうしても対比してしまうためか、心の安定は園芸を始める以前よりもずっと揺らいでいた。
 かといって今更辞める事なんて出来ない。途中で投げ出して笑えるほど器用な生き方を出来る人間なら、そもそもこんなことで悩んだりもしないのだから。そんな人間に生まれたかったとは微塵も思わないけれど。
 「――出かけてくるよ」
 うだうだ考えるのはやめよう。それを思考のくぎりにして、ヘンリエッタに声をかけた。行き先は前から決まってる。農産系の資材の充実した雑貨屋だ。もっと色んな物資と知識が必要だから。
 私はテーブルの上でちかちかと太陽に反発している鍵を無造作に握り締め、部屋の扉をくぐっていった。

 「そうかい。園芸をね」
 旅する身空で大変だね、と雑貨屋の店主はにこやかに笑った。
 「何か、良い物あります?」
 「そうさなぁ。これなんかどうかな」
 アタシが作った栄養剤だよ、と彼は自慢げに話した。自然材料ばかり使ったから格段に効くというわけじゃないが、その分副作用に悩む必要は無いとか。アドヴァンティジよりもディスアドヴァンティジのほうが怖いのはもっともだから、こういうものの方が私には向いているかもしれない。
 「じゃあ、それください」
 気のいい返事を返した店主は、丁寧にそれを包んでくれた。挨拶もそこそこに、私は店の扉をくぐり、外へと出る。
 突如、全身の肌を刺激したのは強烈な違和感だった。空の色も、木々の色も見た目に変化などないのに、私の感覚の中ではどす黒く塗られたように感じる。その違和感の元を確かめる前に、それは確信へと変わった。
 鼓膜を強かに打ち据えた女性の絶叫は、左手から一瞬だけ迸り、唐突にぶつりと途切れた。断末魔の悲鳴だったことは想像に難くない。逃げ惑う村人、倒れる老人。その老人の喉笛を食いちぎり、屍を越えこちらに走り寄ってくるのは東南部ではそこかしこで見る犬型モンスター、ケルベロスだ。数は、5匹。 
 最近、モンスターが突然大量発生するという報告をよく耳にしていた。どこかの悪魔が扇動しているなどという噂もあるが、詳しいことは分かっていない。まさかそれに自分が遭遇するとは。
 明らかに私への殺意を露呈しているケルベロスだが、例え10匹居ようともこんな雑魚にやられはしない。私は魔物もかくやと言わんばかりの憎悪で脳裏を塗りつぶし、魔法陣(サークル)を描き、詠唱(スペリング)を開始する。
 「凍てつく者よ、来い!アイスミサイル!」
 空中に突如として現れた5つの巨大な氷弾は、0から最大速度へ一瞬で加速し、大気を引き裂いた。こちらへ直進するケルベロスたちはろくな回避も取れぬまま、5匹とも涼しげな弾を眉間に受ける。小気味良い音と共に、犬どもの頭部は爆砕した。脳漿と血が空気中へばら撒かれ、緑の風景を白と赤で彩る。銜えていた老人の頭も一緒に吹っ飛んだが、いずれにせよ死んでいるのだから問題ないだろう。勢いがついて足元まで滑ってきた肉の塊を憎しみを込めて蹴り飛ばす。足元から上げた視線の先には既にタランチュラの団体さんが私へ行進を開始していた。一匹一匹はタンスの上で巣を張る、可愛げな節足動物の形と変わりがないというのに、図体は犬よりでかいとは一体どういう了見なのだろうか。どちらにせよ、あの牙で噛まれたら絶命は必死だ。描く魔法陣(サークル)は三角形(テジャス)、紡ぐ詠唱(スペル)は力強き炎の詞。
 「司るは炸裂の命!砕けんばかりに火よ!荒れ狂え!ファイヤーボール!」
 鼓膜を焦がしたのは鮮烈な爆音。タランチュラたちの中心で発生した炎は砕け広がり、大地は大穴を穿たれ黒く焼け焦げる。体内まで浸透する灼熱の魔力と地面に亀裂を与えるほどの衝撃はタランチュラの全身を焼き尽くし、叩き拉いだ。勝利を確信する光景だが、蜘蛛の体液が燃え、ひどい悪臭が立ち込めたため、ファイヤーボールを使ったのを少し後悔する。
 「ああもう、気持ち悪いな!」
 吐瀉物の代わりに罵声を吐き捨てて、私は宿屋の方へと全力で駆けていった。
 
 
こんばんわ。陸堂です。
ほんとは前・後編で終わらせるつもりだったのですが、中編を作りました。
プロットが変わって長くなったわけでも、思ったより文量が増えたわけでもないです。
いい加減あげとかないと某女性戦士に殺されそうだからです(酷

今週中に後編頑張れるかなぁ・・・( ´・ω・`)
陸でした。
[PR]
by hisaya_rikudo | 2006-06-18 19:57 | 小説

Godius小説~変わりつつある気持ち・変えなきゃならない現実~ 前編

 私が力を求めたきっかけは、そう珍しくない。ほとんどの人間、女子供ですら戦える力をもつこの世界じゃ、生活のためや復讐のために力を求めることなんて日常茶飯事だ。私も例に違わず、後者の理由で力を求めた。鋼と血の臭いにむせ返りそうになりながらも、異形の怪物たちによって肉塊に変えられた両親を思い浮かべて、憎悪の炎を絶やすことなく今まで戦い、生き続けてきている。
 そうして、復讐を達成するには十分すぎる力を得た今、私の心は満足感で満ちているかというと、そういうわけではない。先達が口を揃えて言う「復讐に意味はない」という台詞に私もカテゴライズされるのかと思うと舌打ち混じりに眉間に皺を寄せたくもなるが、心を埋め尽くす虚しさはその言葉を身をもって証明するには余りあるほどだった。またも先達の言葉を借りると、「時がたてば憎しみも風化する」とあり、事務的作業の“狩り”になりつつある最近の戦いをそのまま表していると言えよう。もはや、いたずらに力を誇示しつづけることに意味なんて無いのかもしれない。
 ならば私は、戦うことをやめられるのか?否、やめられるはずがない。幼いころから20余年、こればかりを学び続けた私に、今更どの道に進めというのだ。確かに中には、戦いで得た富で裁縫や、鍛冶などの職を開業するものも居れば、隠居して農業に精を出す者も居る。だがパゴール魔導師学会を破門され、ベルク正教会司祭の肩書きも剥奪された私は、魔導を教えることも神に祈ることもできはしないのだ。――そんな結論を自己の中で導き出して、何十回と繰り返してきた無駄な問答に終止符を打つのだけれど。
 この日は、いつもと違っていた。
 「園芸でもしたら?」
 ――彼女の台詞を問いただす前に、自己紹介をしておこう。私の名前はリーメル・シェホフ。全属性の魔法を使いこなすSageの役割を担いながらも、ため息交じりの毎日ばかり過ごして肌の艶と張りを失いつつある独身女性。それが私だ。
 でもまだ三十路前だから。それだけ、よろしく。


変わりつつある気持ち。変えなきゃならない現実。


 「園芸?――私が?」
 こめかみが痛くなるほど目を見開いて、私は尋ね返した。彼女は調理する姿勢を崩さないまま少しだけこちらへ顔を向ける。それに合わせて後頭部でくくったブロンドの髪がふわりと揺れた。
 「そうよ。貴女以外に誰が居るの?」
 彼女はいつもの笑顔を崩さないまま、あっけらかんとした調子で答えた。その毒気のなさに私はため息混じりに頬杖をつくのが精一杯だ。もっとも、そんな明るいところに惹かれたから彼女についてきたのだけれど。
 「ヘンル。貴女、私の話ちゃんと聞いてた?」
 ヘンルーダ、それが彼女の名前だ。長いブロンドの髪は戦場を潜り抜けてきたとは思えないほど艶やかで、顔立ちにも気品が残る。おせっかいなところが玉に瑕だけれど、それも彼女の優しさからきているものだと思えば安いものだ。本当の瑕は、少々おっとりしているところなのかもしれないけれど。
 もちろん聞いていますわよ、とヘンルは笑顔で答えるとフライパンをそのままテーブルの上においた。熱された鉄板の上では、トルイカ草とヤダカイの根、キヨリ鳥の卵の炒め物が菜種油と一緒に合奏を奏でている。香ばしく立ち上る香りは朝一番の食欲を発起させるには十分だ。野営地での調理とは思えないほどだ。ひとまず園芸の話は置いといて、まずは玉子焼きを食べることから始めるべきだろう。
 私がすばやくタラ樹のフォークに手を伸ばした時、横手のテントから大きなあくびがあがり、大柄な影が飛び出してきた。
 「ああ、美味しそうな匂いだな。食べるならやっぱりヘンルの料理に限るね」
 短い紫の髪の毛は首の辺りでちょこんとくくられていて、筋張った首筋をあらわにしている。背の高い、がっしりとした体躯でありながら、端正なつくりの顔立ちは彼女が女性であることをこれでもかと主張していた。
 「おはよう、ザント」
 彼女は砂時計(ザンドゥール)なんて洒落た偽名で通している。呼びづらいし、女性の名としてはイメージが暗いから最初の砂(ザント)だけを取って呼ぶことにしたそうだ。褐色の肌はそこかしこが荒れていて、腕や足は武器や甲冑に因る傷と肉刺が見て取れる。それでも瞳は優しげで、頼れる姉御といった感じだ。ただ年の話をすると殺されかねないから、姉御だなんて口が裂けても言えないけれど。
 「おはよう、リーメル。少しは慣れたか?」
 何に慣れたかなんて、たずねるまでもないだろう。ヘンルとザント、そして私が所属するギルドに関してだ。きっと来るであろうこの質問に、私はこう答えようと一昨日くらいから決めていた。
 私の肩を軽く叩いたザントの手を乗せたまま、私は肩を竦める。
 「ギルドの名前以外はね」
 私の答えに、二人は顔を見合わせ、一呼吸置いて笑い出す。えー、ひどいなぁ。いや、言えてるよ。彼女たちの笑顔があふれるこのギルド。沸き立つ戦で荒む世界に少しでも笑顔を、という気持ちで作られたギルド“にゃはは”。その信念はすごく共感できる。現に今目の前で二人が笑顔を見せてくれることはすごくうれしい。――けれど、私が笑うにはまだ少し早すぎる気がして。だから私が浮かべる笑顔は、いつもどこか乾いていた。

 
 「それで、考えてくれた?園芸の話」
 朝食を食べ終わりフォークを咥えて弄んでる私に、ヘンルは話を蒸し返してきた。どうやらこのお嬢様は私に園芸をやらせたくて仕方がないらしい。
 「園芸?何の話だ?」
 武器の手入れをしていたザントも首を突っ込んできた。まさかあの恥ずかしい話をザントにも説明しなくてはいけないんだろうか。ヘンルに言ったのだって、ちょっと早く起きた朝が少し暗くて、なんとなく物寂しくて口が滑ったわけで。こんな意識のはっきりした状態で、お天道様の真下で公開されるのは、気だけじゃなくて腰まで引ける。左の頬から右の頬まで紅色の道が通りそうだ。
 「リメさんがね、手持ち無沙汰だから何か熱中できる趣味がほしいんだって」
 誤魔化したのか、それとも彼女が私の話をそう理解したのかは私には分からないが、あの恥ずかしい身の上話をする必要がなくなったのは良いことだ。ヘンルのやさしさに助けられたと思っておこう。
 ザントはそれで納得したのか、あまり興味がなさそうに、へぇ、と相槌を打つだけにとどまった。
 「園芸ったって――どうやるのさ?」
 私はこれまで、園芸なんて考えたこともなかった。確かに民家によっては軒下にプランターを備えてあったり、綺麗な花壇を設けているものもあったが、それを自分で手を加えて作るだなんて思いもよらなかったのだ。植木鉢はどういうものがいいのだろうか。土はどんな質のものを使うのだろう。どんな気候が、気温が合うのだろうか。挙げきれないほどの疑問が出てきたが、ヘンルはそれに一言で答えた。
 「ジョウロくらい使えるでしょ!」
 ――そりゃあ、使えますよ、はい。私も一応、27年生きてきましたから。でも、なんか違う気がするんだけど。
 「じゃ、じゃあ何を育てろと――?」
 綺麗な花を育てるにはそれなりの準備が必要だし、何より安定した気候と常日頃のケアが大事なはずだ。たとえばリオランだと東南部半島などの湿度が高くて暑いところにしか生息してないし、ダユータやアーダハなどのカラフルな花は、首都あたりでないと育てるのが難しいはずだ。私は短い時間で必死に悩んだ。だがヘンルーダ様は自分の道をまっしぐらに進んでいる。残念なことに、進みすぎて周りが見えていないらしい。
 「ほらまず簡単なところで、アジラタとかどうかな」
 ――年中色も変化せず、極小の水量で何十年も生きる観葉植物で何をしろと。
 「トルイカ草とか育てればいいんじゃない!?ラムパス湿原で大量に作って食費を浮かせてさ!」
 ザント、それは園芸じゃなくて農業だよ。まともな意見を期待すること自体が間違っていたのだろうか。私はため息混じりに最後の質問をする。
 「何故園芸を勧めたの?」
 あっさりとした口調でたずねると、ヘンルの笑顔が突然やさしげな面持ちに変わった。急な変化に私は聊か面食らう。ヘンルは少し目を伏せると、すぐに青空を見上げた。
 「園芸に限らず、何かを育てることってすごく素敵なことだと思わない?自分の手に命がゆだねられてる瞬間は、すごく大きな責任を背負った気分になるけれど、大事に育て上げることができたときの喜びは、何にも替え難いと私は思うの」
 何か勉強になるかもしれないよ、それが勧めた理由かな。ヘンルはそこで区切ると、少しだけ頬を紅潮させて、いそいそと朝食の片づけを始めた。ザントは軽く微笑んで、武器の手入れを続行する。私は加えていたフォークを親指と人差し指で持ち上げて、三叉の矛先を見つめた。
 命といえば、奪うばかりの日々だった。防戦とは言え、モンスターだけでなくタペリ人の命すらも蹂躙して、私は今ここに生きている。そんな私が、命を育てる? これは贖罪なのだろうか。それとも、今までの自分を正当化するための言い訳なのだろうか。贖罪も、言い訳も、私は好きじゃない。けれど、命を育てること、そしてそれによって得られるであろうおぼろげな答えに、強烈に惹かれている私自身があることを、私はこれ以上隠すことはできなかった。
 「――やって、みようかな」
 ぽつりともらした私のつぶやきに、ヘンルは満面の笑みを返してくれた。



こんばんわ。久しぶりの更新です。
今回の小説は私のやっているネットゲーム、ガディウスを舞台にした小説です。
主人公の悩みをうまく解消できるラストにもっていけたらと思います。
後編にご期待ください。
陸でした。
[PR]
by hisaya_rikudo | 2006-04-22 04:10 | 小説

Diabolia外伝~記憶を濡らす琥珀酒~(後半)

 不快感は絶頂だった。喜びの涙も、感動の別れも、完璧にぶち壊された。
 出発のときは頂点に至ってすらいなかったお天道様は、隣の港町までの道中で、既に水平線の向こうの雲の台座へ身を寄せている。夕焼けの色が山の合間から迸る平野は金色に満たされ、黄昏に満ちた味わい深い情景をかもし出していた。俺たち二人には最高の情景だろう。
 俺たち二人だけなら。
 もう一人は無表情で俺の目の前に立ちはだかっていた。慶花と同じように短く刈り込んだ頭髪、細い一重の目、頬骨は張っておりきつく結んだ唇はからからに乾いている。顎に生えた髭は整えられていた。
 陸堂紅慈。陸堂家現当主であり、俺の糞親父だ。体力や感覚は若い俺の方が上だろうが、親父の蓄積された経験とそれに裏づけされた自負の前には、そんなものは児戯にも等しいことだろう。だがそれでも不思議と、恐怖や絶望を感じることはなかった。不快感だけが胸に汚泥のように溜まり、それに抗うように口の端には笑みを浮かべる。自分でも驚くほどの落ち着きようだった。
 親父は組んでいた腕を下ろした。
 「帰るぞ。子供は親には逆らわないものだ」
 期待を裏切らない台詞は、大袈裟に鼻で笑い飛ばしてやった。
 「子供だと?今日は成年の儀のはずだがな。当主を継ごうが継ぐまいが、俺はもうそっちの理屈では大人だ。構わないでもらいたいね」
 反吐を叩き付けたくなる態度へ吐き捨てるのは、暴言だけで十分だ。不安げな面持ちを寄せる凛を背後へ隠し、親父の双眸を睨みつける。五十を越えてなお、澄んだ色を湛えるその瞳は、怒りも悲しみもありはしない。いっそ怒ってもらうほうがまだよかった。それなら多少なりとも考えもしたし、相談もしたというのに。そもそも俺が自分でも丸分かりの馬鹿げた逃走劇を企画したのは、この人間としての情緒を失っているのか疑いたくなるほどの保守的な態度が気に食わなかったからなのだ。既存の慣習を改善する俺の行為、主張に対しても、賛成どころか反対すらなく、只管無視される。まるでそれこそが美徳だといわんばかりに。
 石頭の糞頑固親父は、呆れたと言わんばかりに溜息を吐き出した。
 「当主を継がずして何が大人だ。果たすべき義務も果たさずして自分の都合だけを押し付け、周りのものを振り回すその様は子供の頃から何も変わっていないではないか。この国のことを、家のことを考えたことがあるのか?相手の光明寺家のこともそうだ。お前との縁談が破談になるということが、どういうことか分からぬ年ではないはずだろう」
 「分かった上でやっている!護国の要とまで呼ばれた由緒正しき剣術を正式に継ぐものとして生まれた俺に備わっている義務も、俺が身勝手に動くことが周りの人間にどれだけ実質的な被害を及ぼすことになるかも、俺は全て分かった上で動いている!光明寺家が断絶を受けようとも、それを引き起こした因をこの身に焼き付けて、必死で生きていくだけの覚悟をしているんだ!」
 俺の独断の行動が実れば、周りに与える被害は甚大なものとなる。陸堂家はお上より必要とされる家柄だからまだしも、この家に関わってきた柴木家をはじめとする世話人の家系や、俺と婚儀を結ぶ予定だった光明寺茜の家は酷い罰を受けることだろう。事実はどうあれ、この事件を端から見れば光明寺家の出した娘に問題があって婚儀がぶち壊されたとしか思えないからだ。俺もそれくらいは頭に回っていたつもりだ。彼女の顔を思い浮かべれば、良心の呵責が棘を放つが、その罪と痛みくらいは背負うつもりでいる。
 否、きっとそれは言い訳にすぎず、彼女と彼女の家の苦しみを考えるよりも、凛と一緒になることが俺にとって大事なだけというのが本心なのだろう。結局俺も身勝手なだけなのだ。
それを知ってか知らずか、親父は嘲笑すら浮かべず、表情からは只管呆れを垂れ流す。
 「お前の覚悟など誰も求めていない。皆、唯々平穏な暮らしを望んでいるだけなのだ。培ってきた平和に、悪戯にひびを入れたくないのだ。そんなことも分からずして何が覚悟だ。馬鹿げたことをほざくのもいい加減にしろ」
 「平穏な暮らしだと!?真に平穏な暮らしを望むのならば、こんな進歩の無い生活をするべきじゃない!明らかに非効率的で、個人の意思を侵害し、産業と精神の発展を阻害する悪質な慣習は多少の犠牲と痛みを払ってでも排除するべきなんだ!陸堂家はその諸悪の根源だろう!田畑を耕したことも無い糞爺どもが机の上だけで話し合い、自分達の下で生活し、自分達を支えてくれる要の百姓のことなど全く見ずに全てを決めている。最初はあった不平不満も、この生活が長く続けばそれが正常だという退廃した価値観を生み出し、上から下まで全ての人間が保身にだけ走り、ただ諾々と日々を過ごす。確かに争いは無いさ。だがそんなものは平和でもなんでもない!誇りを失っているだけだ!家畜に成り下がっているだけだ!」
 胸の中に溜めてきた全てを一気に言い放った。激しく鼓を打つ心臓は、息継ぎせずまくし立てたせいか、それとも思いのたけを吐き出した緊張からか。上下する肩を宥めながら、俺は親父を上目遣いに見る。親父は若干俯いて、瞳の色を隠していた。
 顔を撫でる風が、急に冷たくなった。
 金色だった空は、薄暗い藍色に沈み始めている。
 影が、ぞくりと震えた。
 「―――残念だ」
 搾り出したような親父の声は、悲しげで、しかし人間としての情緒は最後のひとかけらまで忽然と消えている。まるで長い舌で舐められたかのように、背中に悪寒が這い上がった。
 「お前は陸堂家の歴史において突出した力を持つとも言える者だった。力の薄い慶花に比べ、どれほど可愛かったことか」
 嬉しくもない、否、嫌悪すら沸く褒め言葉だ。親なら力の有無に関わらず両方の子に愛情を注ぐべきだろう。
 嫌悪がするという点では殊更始めと変わりないのに、こちらの情態は酷く揺れている。腕には鳥肌が立ち、足は無意味に強張り、頬は冷や汗が駆け抜けた。相変わらず背中を嘗め回す悪寒は、消えるどころか重荷となって圧し掛かる一方だ。
 一体何だ、この感覚は。
 「だが、聊か思想的に問題があるようだ。連れ帰っても改心するとは思えん」
 眼前へ飛び込んでくる不可視の壁が俺の身体を軋ませる。後退しそうになる足を意地だけで地に縫い付け、唇を噛み締めて震えを堪えた。
 何だ、何なのだ。
 まさか、これが―――
 「消すも已む無し。―――残念だ」
 殺意なのか!


 「凛!下がってろ!」
 一閃は視界の端の夕日を切り裂いた。軌跡すら見せぬ高速の移動から繰り出された超高速の剣撃は、ぎりぎりで屈んだ俺の髪の毛数本を持っていく。間髪入れず地に下りる剣を掻い潜って俺は大きく後ろへ跳び退った。刃は地面すれすれで止められたが、込められた殺意と力は止まらない。切り裂かれた大気より生まれる旋風が、親父の足元の土を巻き上げた。親父の手に握られるのは4尺に僅かに足らない一振りの刀だ。ほんのりと青いその刀身から付けられた名は、“漣月(ゆれづき)”。
 俺は慌てて神雨を引き抜く。その様子は動揺を垂れ流しにしていたはずだ。怯えた目をして、強張る手で握った神雨の切っ先が小刻みに震えているのだから。
 「ちょっと待てよ!親が実の子を殺すのかよ!しかも理由が意見の食い違いか!?いまどき警吏も呆れるぞ!」
 説得になるとも思ってないが叫ばずには居られなかった。意味が分からない。なんで俺は殺されなきゃならないんだ。只管に恐怖だけが全身の隅々まで駆け巡り、両足は今にも逃げ出したいと叫ばんばかりだ。だが修練のたまものか、足は逃げずに地面を掴み、切っ先は震えながらも親父の喉を睨みつけている。俺は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
 親父の耳は、酷く聡い。俺の呼吸の切れ目に合わせ、踏み込みの過程を無視して唐突に俺の間合いに現れる。ぎりぎりで知覚できた右からの太刀筋は掲げる神雨で弾き、俺の狙いは鎖骨への峰打ちだ。
 そのはずだった。その太刀筋が感覚の中から消えうせるまでは。
 刹那の見切りは刹那の当惑に塗りつぶされ、背筋が悪寒で凍りつく。まだ明るさが残る夕暮れが、一瞬で深淵の闇と化したようだ。右も左も分からぬほどの困惑の中、凍りついた背中に突如、熱が戻る。燃え立つほど熱い背筋に、全身の力が戻る気がして―――
 そして俺は顔面に酷い衝撃を感じた。草花と、乾いた土の匂いが鼻の奥をくすぐる。地面なのか?なんでこんなところに?背中の火照りは治まるどころか、激しく加速し始め、右肩の向こうから炎の欠片が噴き出したような錯覚までもが視界の端を蠢いた。炎?違う。これは、これは、真っ赤な、真っ赤な、血液―――
 声にならない!声にならない!喉が、目頭が、背中が!胃が搾られる!吐き気が!
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
 激痛と呼ぶことすら生易しい神経信号は、俺の身体を草地の上で転がした。傷跡に草花と砂が摩り込まれる感覚が、鮮明すぎる感覚を更に激しく刺激する。
 甘すぎた!一撃を受ける痛みがこれほどのものだとは!まともな思考も、目を開くことすらも許さず、烈火の如き痛みは只管転がることを強制する。反撃も防御も回避もできない。一撃で殺される。殺される?殺されるのは―――嫌だ!
 口の端から泡を吹きながら、俺は両手で地面を叩き、立ち上がって神雨を構え直した。背中を逆袈裟にやられたらしく、右肩があがらない。這い上がる痛みが衰える様子は無く、熱は滾る一方だ。顰めた表情で、頼りなげに左手一本で神雨を構え、俺は親父に相対する。
 「弱弱しいな」
 五月蝿い。黙れ。気を張るだけで精一杯で声など出せるわけが無かった。
 「娘の命は保障してやる。楽に、逝け」
 逝ける訳があるか!こんなところで、こんなところで死んでたまるものか!
 持ち上げることすら困難な瞼、ままならない視界。動かない右腕。恐怖がこびりついて怯えるままの両足。生への執念だけを身体から噴き出して、ふらつく俺はまるで亡者だ。
 信じろ!勝てないと思うな!生きろ、生きるんだ!
 根拠も無い、希薄と云う言葉すら不十分な希望を反芻する。
 親父が自嘲気味に笑った気がして。
 一瞬で眼前の大気は押しのけられた。
 俺に礼儀でも払ってくれたのか、攻撃は馬鹿正直に真正面からの逆袈裟割りだ。だが、太刀筋が分かっても身体がついていかない。
 生きる。俺は生きてみせる。いや、神が俺を生かすはずだ。
 この期に及んで、自信を超越した妄想を抱き続ける自分に苦笑して、俺は漣月を待ち受けた。


 まさに奇跡としかいいようがない。神が居るとしたなら、俺は本当に神に生かされた。だがこれが神の仕業だというのなら、俺は神を斬り捨てなければならない。
 「どうして!どうしてなんだ!」
 困惑と衝動が、俺の双眸から感情の奔流を垂れ流しにし、傍で剣を携えた親父は呆けたように俺を見下ろしている。その視線は俺の涙か、俺の服を濡らして滴る大量の血液か、もしくは―――
 「なんでお前が死ななきゃならないんだよ!凛!」
 俺の腕の中で横たわる凛の身体は、俺と同じように右肩から左脇へと刀傷が抜けている。俺と違う点は、背中ではないことだ。深く刻まれた傷口からぬらりと光った臓物が蠢いている。傷の奥で顔をのぞかせる臓物は、まるで源泉のように血液を搾り出していた。命の色を薄めていく肌が、血液の鮮明さを更に際立たせていく。
 あの瞬間、凛は俺と親父の間に踏み入り、身を盾として俺を庇った。親父の踏み込みを妨げられるなんて奇跡中の奇跡だが、こんな奇跡ならおきて欲しくなかった。
 凛は、俺の顔を見上げると少し微笑んだ。そして唇を動かすが、もう声は出ていない。唇が動くたびに血液がごぼごぼと噴き出したが、俺は凛の最後の台詞を止められなかった。―――助からないのは、目に見えていたから。

 日向様、親子で殺しあうなんて、おやめになってください

 「分かった。心配するな」

 私を失ってお辛いかもしれませんが、私も貴方を失っては、生きる意味が無くなってしまいます。貴方だけでも生きてください。

 「俺だって君が居なくちゃ―――でもそれが君の最期の望みなら」

 わがままで申し訳ありません。

 「いいんだ。謝るのは俺の方だ。」

 いままで、ありがとうございました。

 凛は弱弱しく微笑んで、そして土気色の肌に身を包み、人を終えた。俺は“凛だった物”を手の内から解放して、地面に横たわらせる。
 夕日は逃げるように水平線の向こうへ埋没した。虚しいと感じる感覚まで飲み込むほどの果てしない虚無感は、忍び寄る夜闇よりも暗く深い。何時の間にか、傷の痛みすらも腫れ物を扱うかのように俺から遠ざかっていた。
 「帰るぞ」
 親父は漣月から滴る血を振り払った。
 「その娘が死んだ今、お前が意地を張る理由は無いだろう。戻り、当主の座を継ぐのだ」
 奈落のように落ち続ける虚無感から、何かが這い出してくる。熱く、赤い、妖のようなものが奈落の壁を上り、蹴り、飛び上がってくる。爪を突き立てる感覚が俺の全身に力を漲らせ、蹴り、飛び上がる感覚が、俺の意識を高揚させる。痛みはもう、俺の元から逃げ出していた。
 熱い。炎か?いや違う。
 赤い。血か?いや違う。
 これは紛れもなく強烈な―――
 「凛はああいったが、俺は絶対に貴様を許さない」
 ―――やる。
 「峰打ちで済ますつもりだったがもうやめだ」
 ―――てやる。
 「刃に死を刻まれて」
 ―――してやる。
 「今ここで命を果てろ!」
 ―――殺してやる!
 構え、踏み込み、抜刀。その三動作を完全に省略して俺は親父の横手から斬りかかる。赤に見紛うほどに殺意に塗れた神雨は、薄い青に揺れる漣月に阻まれた。刃の噛合う音が鼓膜に炸裂する頃には、俺は既に親父の背後だ。親父の胴を切り払う一撃は、引き戻された漣月の柄が受け止める。しかし俺は親父の膂力をものともせず、神雨を振りきり親父を押しのけた。
 圧倒的な膂力で身体ごと吹き飛ばされた親父の身体が微塵も遺さず消える。左後方から振り降りる一撃を知覚して、滑るように刃を差し入れた。はずだった。
 知覚した刃が唐突に消えうせる。刹那の見切りが再び、刹那の困惑に打ちのめされた。既に辺りを包みきった夜闇が、更に深淵の闇に落ちる。
 だが、俺の抱え込んだ奈落はこの程度の闇じゃない。
 俺は直感だけで真正面へ横薙ぎ振り切った。
 手に余るのは、形容しがたい手ごたえ。振り切った直後、刹那の間をおいて、俺の顔に生暖かい水が飛び散る。強烈な生臭さが鼻腔を駆け抜け、闇の中で影が力なく崩れ落ちた。風の音の中で、ごぼごぼと水が湧き出るような音が動き出す。そして、それは咳き込む音に中断された。喉から迸った血液は足元をじっとりと濡らす。
 俺は冷静で、それでいて殺意に満ち溢れていた。だのに背中を襲う虚無感と、鼻を抜けるような寂しさは一体何なのだ。俺は頭を振って、ちらつく雑念を振り払う。俺は、間違っていない。間違っていないんだ。
 「死ね」
 神雨を振り下ろす瞬間、悲しかったのは何故なのだろうか。
 そして、神雨が金属音を上げて鳴いたのを、安堵したのは何故なのだろうか。
 「もういいだろう」
 神雨を受けたのは、刀身が夜闇の中ですら目立つほどに黒い、兄弟刀悪風。俺を阻んだのは、他でもない陸堂家次男陸堂慶花だった。


 船室の丸い窓から見上げた空は、透き通った青い色を顕示していた。その美しさに、しばし見惚れる。思わず頬が綻んで、そのまま布団へ寝転んでしまった。
 「痛ぇ!」
 治療されたとはいえ、背中の傷は健在だ。頭の中が真っ白になりそうな痛みに俺は板張りの床を転がりまわった。
 ここは昨晩に港町四子隅から出航した子鮫丸の船室の一つだ。本来船室は団体部屋なのだが、船長の計らいで俺には個人部屋が当てられた。嬉しいことこの上ないが、これも陸堂家の人間だからという意味があるのだと思うと、聊か虚しくもあった。
 昨晩、途中で現れた慶花は俺にこう言った。「ここを出て行ってくれ」と。当然だろう。あんな男でも、慶花にとっては親父に違いない。掛け替えの無い家族に違いないのだ。そして俺も家族に違いないからこそ、慶花は俺を殺そうとはしなかった。「これ以上やるなら僕が相手になるよ」とは言っていたけれど。
 慶花に負けるとは思わないが、それでも俺は親父に止めを刺そうとは思わなかった。慶花まで手に掛けるのが嫌だったというよりは、既に俺は親父に対して、いや親父に止めを刺すことに関して興味を失っていたという方が正しい。何故なのだろうか。憎しみは消えるどころかますます増長して滾るほどだというのに、もう刀を振り下ろせる気がしない。これが、家族というものの限界なのだろうか。いや、少なくとも親父はそうじゃなかった。本気で俺を殺しにきていたはずだ。ならば、俺が甘いということなのだろうか。
 俺は凛の髪の毛を一房だけ入れた袋を握り締める。凛の遺体の処理は慶花に任せた。俺にそんな暇は無かったから。
 「―――すまない」
 謝ったのは他でもない、凛に対してだ。凛を必ず守ると心に決めているのに、守るどころか逆に守られ、あまつさえ仇を討ち損ねるなんて、そして討つ意思が既に消えかかっているなんて、凛に対する侮辱に思えたからだ。俺の凛に対する気持ちはそんなものだったのか。自責は更なる自責を呼び、心は底の無い奈落を絶え間なく落ちていく。
 「でもお前は、親子で殺しあうな、って言ったんだよな」
 守れなくてすまない。謝るばかりだ。本当に情けない。そして虚しい。謝る相手なんて、もうこの世に居ないのに。
 「会いたいよ」
 何故隣に居ないんだ。
 「君の声が聴きたいよ」
 何故ぬくもりを感じられないんだ。
 「君の笑顔を感じたいよ」
 何故、何故、何故―――
 「―――泣いても、いいよな?」
 返事は、やはり無かった。


 ブランデーを湛えたグラスに浮かぶ氷は、その姿の大半を消失させていた。グラスの半ば以上に量を増やしたブランデーを一気に飲み干す。薄まった味は、軽い口当たりで喉を駆け抜けていった。
 「そんなとこだね」
 一通り話終わった俺は、懐から出した黒っぽいイクラム(たばこ)を咥えて火をつけた。肺一杯に吸い込んで、一気に吐き出す。うっすらと紫色の煙が、目の前を一瞬だけ漂った。相変わらず、イクラムは美味くない。銘柄の問題じゃなく、イクラム自体が。
 「リド(イクラムの俗称。蔑称に近い)なんて吸ってたか?」
 俺の相棒、霧上魔狐兎は傍目に分かるほど表情を顰めて、顔の前を手で仰いでいた。そういえばこいつは、イクラムの煙が嫌いだったな。
 「たまにね。美味いとは思わないけどさ」
 落ち着くんだよな。そう呟いて、また煙を吐き出した。今度は魔狐兎の顔にかからない方向へ。煙は一瞬だけ姿を見せて、文字通り霧散する。この店内は心地良い夜風が通り抜けており、換気に優れているようだ。
 二杯目のブランデーを手酌して、氷を入れる。可愛らしい音を立てて、氷はその身体に亀裂を入れた。
 「それで、どうしたいんだ?」
 訊き返すこともなく、俺は魔狐兎を一瞥した。魔狐兎は少しだけブランデーを口にしてグラスを置く。そして俺の方を真っ直ぐに見据えた。
 「どうせお前のことだ。答えが出せなくて拘っている過去なんだろう?いや、答えは出ているけれど、葛藤のせいで行動できないのか」
 だから、俺になんか言ってもらいたかったんじゃないのか?そこまで一息に言って、魔狐兎はグラスをあおった。そこまでお見通しだとは、こいつの観察眼には頭が下がる。年も変わらないのに、俺よりもずいぶん大人なイメージを受けるのも仕方ないことか。俺は返事をするでもなく、ただ微笑んで、ブランデーを飲んだ。
 「一度、帰れよ」
 「え?」
 訊き返さずにはいられなかった。帰る?あの忌まわしい陸堂家に?想像するだけで、手に汗が滲んだ。それは憎しみなのか、後悔なのか。それとも、後ろめたさなのか。
 「お前は一つやらなきゃいけないことがあるんだよ」
 「やらなきゃいけないこと?」
 なんだそれは。確執の解消?まさか、俺に親父を殺せだなんて言うつもりじゃないだろうな。
言われたとしてできるのか。憎しみは、一度たりとて消えたことはない。許したこともない。だが殺すどころか、神雨を抜くことすらできそうにない。
 それとも、亜佐美さんに謝罪しろと?あの病弱だが暖かな凛の母の顔を思い浮かべるだけで背筋が凍る。この数年間考えないようにしていた自責が、再び意識の沼から起き上がり俺の方を睨みつけている。魔狐兎は一体俺に何をさせようと―――
 「墓参りだ」
 「―――は?」
 俺は思考が飛んだ。
 「は?じゃねえよ。お前の昔の女の墓参りに行ってこい。そして島を出てからどこをどう旅して今何してるか報告してこいよ」
 命の恩人の墓参りは、俺でも毎年欠かさずやってるぞ。そう言って、魔狐兎はあきれた顔で俺を見つめている。
 俺は何かが晴れた気がした。そうか、そういうことでよかったのか。そうだよ、俺は俺に出来ることをするだけじゃないか。
 「喜ぶかな?彼女」
 魔狐兎はすこし微笑んで
 「かもな」
 グラスに残ったブランデーを飲み干す。それを叩きつけるようにテーブルに置いて、紙幣を二枚グラスに重ねた。
 「今の仕事が終われば、再来週から休暇だ。ちゃんと行ってこいよ」
 俺は先に寝る。魔狐兎はあくび混じりに言って酒場の出口へ歩いていく。俺はその背中を呼び止めた。
 「お前には、助けられてばっかりだな」
 魔狐兎は嬉しそうに笑って
 「お互い様さ」
 酒場のドアをくぐって行った。
 「墓参り、か」
 まずなんて言おう。ひさしぶり、だろうか?それとも四年も墓参りをしなかったことを謝るべきか。また謝るのは格好悪い気もするけれど。報告することは沢山あるから大丈夫だが、逆に沢山ありすぎて大変かもしれない。大陸の酒を持っていくべきだろうか。いや、あいつは酒よりも花の方が喜ぶかな。
 グラスに残ったブランデーを飲み干して、魔狐兎のように紙幣をグラスに重ね、酒場から出る。
 久しぶりに、休暇が楽しみだ。
 俺の気持ちは、この満天の星空のように美しく澄み切っていた。


(終)



陸堂日向君が故郷を出るきっかけになるイベントがこんな感じです。
ま、ベタなお話ですが、日向の怒る様子、悲しむ様子が伝われば幸いです。
ちなみに日向は十八歳で故郷を出て、現二十二歳でクエスターやってますが、彼がクエスターになったのは二十歳のときです。つまり故郷を出てクエスターになるまでに二年間の空白の時間があります。その間の放浪生活も書けたら書きたいんですけどね。案は一応あるし。

ま、書けてよかったです。わーいヽ(´▽`)ノ

陸でした。
[PR]
by hisaya_rikudo | 2005-11-20 21:37 | 小説

Diabolia外伝~記憶を濡らす琥珀酒~(前半)

 話としては、それこそ婆どもの井戸端話にすら三日と持ちはしない。御伽噺の中ならごくありきたりな、お涙頂戴物の悲劇のストーリー。
 だが、その主人公に自分が抜擢された場合、押し寄せる憤怒と絶望は如何ばかりのものか。過ぎ去った悲しみと悔恨に未だに固執する俺は、まだまだ餓鬼なのかもしれない。だからこそ、相棒との酒の席で嘗ての過ちと、力至らなかった自分の惨めさを思わず口から溢したんだろう。
 きっと、そうだ。
 手に持つグラスは琥珀色を湛え、浮かぶ氷が冷えた音を奏でる。
 「―――さて、何から話したもんかね」
 そう言って、嚥下した液体は灼熱感と共に喉を駆け抜けた。
 俺の名は、陸堂日向。
 過去に捉われ、未だ怒りを納められない愚かな男だ。


 親に敷かれた道の上を歩くのが厭だと思ったのは何時のころだったか。少なくとも、彼女の存在が関わっているのだけは確かだ。稲峰凛。彼女の純真な瞳に吸い込まれたのは、十三の時だ。さらりと流れ落ちる黒髪が手に取りたくなるほど美しくて、白い肌は人形のように綺麗で、されど命の重みと輝きを感じさせた。そしてなにより、俺に向けてくれた微笑がすごく可愛かった。一瞬で虜にされた。もっとも、凛にはそんなつもりはなかっただろうけれど。
 だが、すぐさま彼女の手を取って、俺の名前を告げることなどあからさまに無理な話だった。俺が恥ずかしがり屋だったわけではない。容姿に自信が無かったわけでもない。そんなものが蟻より小さく見えるほど大きな壁が聳え立っていたのだ。そう、身分という壁が。
 かたや、ここ一帯を治める領主の跡取り息子。かたや、貧乏で貧相な小屋に病気がちな母親と二人暮しの娘。交際が明るみに出れば結末は想像に容易い。
 そこまでの想像は、十三の頃の餓鬼の脳味噌でも一瞬で―――虜にされた時よりは大分時間がかかったものだが―――構築することが可能だった。それでも、壁の向こうの甘美なる世界を垣間見たいという欲望をあの頃の俺は我慢することができず、ついにはその壁を飛び越え、彼女の手を取り、名を告げたのだ。その時点でもはや壁程度では互いの気持ちを阻むことは出来ず、出会いは再会を呼び、触れ合いは更なる深まりを促した。
 そうして五年の時が経つ。一夜を共にしたのも一度や二度ではない。愛情の絆はもはや如何なる鋭利な刃を持ってしても切り分ける事は不可能だった。
 いや、それは俺がそう思っているだけかもしれない。俺が領主の息子だから、遊びなのではないかと、疑われているかもしれない。
 だが、俺にはそんな気持ちはこれっぽっちも無かった。あいつを守っていこうと、そう心に決めていたのだから。
 そして、十八歳の誕生日が来た。
 運命の分かれ目となる、家督を継ぐ日が。


 妙に間延びするこの尺八の音は、十八の年を数えた今でも好きにはなれなかった。耳朶の奥底に響く感触がゆっくりと間断なく続く様子がどうにも気持ちが悪い。思い出したように鳴る鼓の音だけが心休まる一瞬の気がして、まさに人生そのものを奏でているのではないかと感じ思わず苦笑した。
 「御静かに御願いします」
 皺くちゃの口から出たくぐもった声は、俺に向けられたものだ。白髪をべったりと撫で付けたその老人は、細い目を鋭く俺へと向けている。
 柴木重正。俺の家に昔から仕えている世話頭―――世話人達を束ねる長―――だ。陸堂家に遣える家系の中では最も息の長いのがこの柴木家で、重正は俺が物心ついたころからずっと世話頭だった。十数年の間に外見で変わったのは髪の色程度で、今年で齢八十を数えるだろうにまだあれだけの眼光を発するならば、この先二百年は生きそうだ。それが少し面白くて、また吹き出してしまった。
 「御静かに」
 くぐもった声は、今度は短い。少し手を挙げて謝罪の意を示し、腰に差した刀の居心地を確かめた。
 記憶に残っている限りでは、俺は重正が笑ったところを見たことがない。尤も、子供の頃の俺の基本的な世話をしていたのが編山ふさゑという若い女性だったので当然と言えば当然だ。それでも、重正は初期から中期のころの剣術の稽古の相手だったので、何も知らないうちは何度も親しげに話しかけた。だが何度話しかけても反応がそっけないことを悟ってからは、殆ど会話を交わすことは無かった。それどころかここ最近は、注意されてばかりだ。俺があやふやな返事を返すだけの、おおよそ会話というものとは程遠い意思疎通は、しかし俺の身のうちに何の感慨も沸かせることはない。それでいいと思っている。
 どうせ、こんな家督など―――
 「杯を」
 短く隣から掛けられた声は、まだ耳に新しい。見目麗しい顔を、しかし暗い面持ちで携えながら光明寺茜は俺に、漆で赤く塗りたくった杯を勧める。
 彼女とは三日前に知り合ったばかりだ。名前と顔を一致させることが限界だというのに、今や彼女は肌を白粉で塗り上げ、美しく化粧を施し、白無垢に身を包んで俺の隣に座っているのだから、この陸堂の家柄には心と胃の底から吐き気がこみ上げてくる。
 彼女が無駄に美人なのが尚更そうさせた。これで目も当てられないほどの不細工だったなら、叩き斬ればそれで済んだのに。
 俺が杯を受け取っても、相変わらず彼女はその暗い面持ちを変えようとしない。こんな当人同士が全く気乗りじゃない婚礼の儀なんぞ、やる意味があるのだろうか。
 その質問は、うちの親父や爺どもには意味を成さないだろうけれど。
 俺が生まれた家、陸堂家は恭しくも、この姫懐島流国堵墺県(ひめなつじま・るこく・とおうけん)の一帯を収めるうざったいほど由緒正しい家柄だ。それに加え、俺の家系だけが継ぐことができる陸堂一刀流という剣術ははるか昔から護国の要と呼ばれ、今の世でさえも現人神と言われる姫懐島の最高権力者から絶大な信頼を得ている。だから家系を継ぐことは、陸堂一刀流を継ぐことでもあるため、自分たちだけの問題ではなく、国そのものの問題だと感じているのだろう。
 たかが一つの家を信頼するとは、全くろくでもない国だ。国土が小さい上に産出される資源は輪をかけて少なく、国特有の生産品があるわけでもない。細々と自給自足でまかない、過剰に出来た食料を大陸に輸出して外貨を稼ぐだけの弱小国家の歴史を歩み続けるのも当然と言える。俺のように解放的で革新的な人間はこんな面白みのない国と家に縛られて生きるのは似合わない。だからこそ、神酒を注がれた杯を持ったまま、正座の姿勢から右足を一歩踏み出した。
 「静粛に」などという、重正の声なんぞよりもずっと速く。
 柄に手を掛ける瞬間から納刀までは、“一瞬”なんて単語すら陳腐だ。俺の目の前で真っ二つに割れた杯は、驚愕したかのように神酒を板間へとこぼす。
 周りの人間もまた、驚愕に染まった。親父、クソ爺ども、果ては隣のお姫様までその暗かった表情から一転してこの事態に目を剥いている。そんな中、重正だけが全く表情を変えてなかったが、まぁいいや。
 俺を止められる奴なんぞ居ないのだから。
 「俺を捕まえられたら、考えてやるよ」
 何をか、は言わず、全力でその場から走り去った。


 立て付けの悪い戸は、一際大きい音を立てて大袈裟に開いた。家というよりは小屋のそれは、土間と畳が半々の空間を小柄な体の内に抱えている。かまど、水桶、布団、囲炉裏。あとは生活に最低限必要なものだけが置かれている質素な家だ。僅か十と二畳に足るか足らないかの空間の片隅には、完成品か、若しくは作りかけの編み笠が、山積みにされていた。
 その僅かな畳の間に、人影が二つ。一人は布団から半身を起こした状態で、もう一人はその傍で椀を手にした状態で、突然光を背に戸を開けた俺へと視線を落としていた。
 「凛」
 一言、愛する人の名を呼んだ。儀をぶち壊したのも、家から逃げてきたのも全ては彼女を連れて世界へと旅立っていくためだ。
 だが、ここに至ってその先を口に出すことは出来なかった。とんでもない見落としをしていたからだ。俺は、目線を下げたまま、畳に腰を落とす。
 「身体の調子はどうですか、お母さん」
 凛の母親、稲峰亜佐美は俺の呼びかけに言葉を返さず、ただ優しげに微笑んだ。
 そう、凛の母親の問題だ。病弱で常に寝たきりの母親を持つ身で、俺と一緒になど行けるわけがない。出来れば彼女の母親も一緒に連れて行きたいが、いまや何の財力も無い俺には、母親の病状を悪化させこそすれ、快方に向かわせることは不可能に近いだろう。下手をすれば道中でぽっくり逝ってしまいかねない。
 「どうなさったのです?日向様」
 凛は暗い表情を畳に落とし続ける俺の顔を覗きこんだ。なんでもないさ、と首を横に振る。凛は怪訝な顔をして、母の口へと椀に入った粥を杓で運んだ。
 どうしたものか。悩めば悩むほど馬鹿で非人間的な考えしか浮かばない。つくづく浅はかな考えしか持てない自分に腹が立つ。あんなことを言ってはおめおめと舞い戻るわけにもいかず、かといって永遠に隠れ通すこともできるわけがない。下手をすれば彼女らにまで被害が及ぶだろう。俺自身がどうとなっても構いはしないが、彼女らに迷惑がかかるのだけは絶対に避けねばならなかった。
 「若様」
 俺を呼んだのは、亜佐美さんだ。その声はか弱く、痛々しいほど細かった。それでも彼女は気丈に微笑みかける。
 彼女が聡明で、決断力があったのが俺にとって何よりの幸いだった。
 「どうぞ凛を連れて行ってくださいまし」
 驚きだった。そのことは凛本人にですら喋ったことは無いのに。お母さん?と凛は心配そうに問い返す。
 「本日は若様が当主になられる儀の日のはず。それなのにここにそんな思いつめた表情でいらっしゃるということは、凛を選んでくださったのでしょう?」
 凛にとって何より幸せなことですわ。亜佐美さんは笑顔を俺に向け、そして強烈に咳き込む。凛は驚いて、すぐに亜佐美さんの背中をさすった。俺は居た堪れなくなって口を開く。
 「しかし、私が凛を選ぶということは、陸堂家当主の座を捨てるということです。私には約束されたはずの家も、財力も無い。凛を幸せにしてやれる保障は無いのですよ」
 そして貴女のお身体も―――口に出そうとして、やめた。意図があったわけではない。ただ悲しかっただけだ。
 亜佐美さんは強い眼差しで俺を見つめた。
 「家?お金?女性を軽々しく見てはいけませんわ。若様はそれよりも凛を選んでくれたのだから、それは凛にとって最高の幸せです」
 それに―――と彼女は繋げる。病気を感じさせないほど無邪気な笑顔で。
 「どんな貧乏になったとして、今の生活を下回ることはそうそうありません」
 苦笑するしかなかった。確かに、俺のような世間知らずでも、大陸でまともに職を得ればこの生活を越えることは難しいことではないと思う。
 それでもやはり、亜佐美さんの身体のことは心配だ。
 「私の身体のことでしたら心配いりません」
 俺の思考を見透かしたかのように、亜佐美さんは口を開いて、部屋の隅の戸棚を指した。
 「凛。兄に、明日人(あすと)に戸棚に入っている手紙を出して頂戴。あの子には悪いけれど、凛の幸せのためだもの」
 協力してもらわないとね。凛は亜佐美さんの笑顔に、涙を見せる。嗚咽は次第に大きくなり、狭い部屋を揺らした。
 凛の荷造りはすぐ終わった。ほんの少しの着替えを持っただけだ。それでも、殆ど手ぶらで、しかも婚礼用の紋付袴を着ている俺よりは相当ましだろう。
 「お母さん、無理はしないでね」
 凛は布団で伏せる亜佐美さんに釘を刺す。彼女は気丈に微笑んで、俺たちに手を振った。
 「本当に、ありがとうございました」
 涙を隠すことが出来なかった。それを拭わぬまま、立て付けの悪い戸を大げさに開けて、凛の手を取り開かれた世界へと歩みだす。
 戸を閉めたところで、酷く現実に引き戻された。
 「若様」
 そう呼んだのは、亜佐美でも、凛でもない。
 「よくここを知っていたな、重正―――」
 世話頭、柴木重正老は、その鋭い眼光で俺を射抜いていた。


 「―――私も、馬鹿ではございません」
 もう何年も若様を見てきましたので、と重正は俺を睨む。皺くちゃの顔は聊かの緩みも見せず、双眸はぎらぎらと煮えたぎるように、されど冷徹に俺を見据えていた。
 「俺は“全力”で走ってきたはずだ。どう考えても、普通の人間に追いつける速さじゃない。凛達と話した時間を含めてもここまで到達するには速すぎる。どうやって来た」
 問うたものの、答えはある程度分かっていた。だから、梢の影から、奴が出てきても驚くことは無かった。
 「僕が担いできたのさ、兄さん」
 俺は返事などしなかった。
 こいつの名は、陸堂慶花。陸堂紅慈を父に持つ、正真正銘の俺の弟だ。俺よりも鮮明な緑の髪は、俺とは逆に短く刈り揃えられ、前髪も額にすらかからないほどだ。端正な顔立ちは俺にも引けを取らない美形で、少年のころの面影を残している俺とは異なり、十六という年ですでに青年の風貌を備えていた。纏った服装が、儀を抜け出した俺の間抜けな紋付袴よりはずっとさっぱりした道着なのが羨ましい。腰に差した刀の名は、俺の“神雨(かみさめ)”と対をなし“悪風(あしかぜ)”と付けられた。酷い名だと思う。それだけは俺もこいつと意見があった。
 「お前が十一のときに一度来たきりだと言うのに、よく覚えていたな」
 まさかお前が案内を買って出るとはね。俺はうつむいて少しだけ笑った。この笑いは、自嘲だ。
 正直、こいつが来るとは思って居なかった。親父や糞爺どもは体力不足だから眼中に無かったため、逃走の再最も厄介なのは俺に迫る実力を持つ慶花だったのだが、慶花は追ってこないと踏んで実行に移した。何故なら俺が居なくなれば家督は自動的に慶花のものになるからだ。目の上のたんこぶの兄貴が消えて、家督が舞い込んでくるなんて慶花にとっては夢のような話だろう。だのにこいつは追ってきた。しかも、重正まで連れて。
 「何故追ってきたんだ?」
 「それは僕が重正老に聞きたいくらいだ」
 俺の疑問に、慶花は肩を竦めた。俺は重正に視線を移す。重正は凛を見ていた。凛は不思議そうに、重正は相変わらず厳しい目つきで、ほんの僅かな時間だが、二人は視線を交わしていた。一瞬の停滞の後に、逸らしたのは重正。
 「若様に渡したいものがありましてね」
 くぐもった声は、しかし聞きやすく響いて、重正は懐から厚めの封筒を取り出した。それをそのまま俺に渡す。若干透けた中身とその質感、そして規格通りの大きさにはっとして、慌てて封筒の中身を覗いた。
 中身は四大陸共通貨幣クラーグの札束だった。大陸では兎も角として、この弱小島国では大金だ。下手をすれば平民層の年収にすら匹敵する。一体こんな金どこから―――
 「新しい生活には色々と必要でしょう」
 重正は踵を返して、俺に背を向ける。俺の口から出そうだった詰問が喉で引っかかったのは、その背中がやけに寂しげだったからに他ならない。
 「―――止めないのかよ」
 辛うじて、小声を唇から搾り出した。
 「止めません」
 重正はこちらを向かない。印象と態度であれほど大きく見えた重正が、今では年相応に、いやそれ以上に小さく見える。
 これが別れというものなのだろうか。重正のことなど最近では殆ど気に留めていなかったというのに、いざ別れるとなるとこれほど心に空虚な風が吹き抜けるとは。風穴を開けられたような気分の胸を渡された紙幣ごと掴んで、恥ずかしくて一度も言えずじまいだった言葉を今、言う。
 「重正―――ありがとう」
 重正は肩越しにこちらへ振り返る。その目には、うっすらと潤いが光っていた。
 「お幸せに、“日向様”」
 くぐもった声は、耳に優しい。重正は、参りましょう、若様、と慶花に若の敬称を渡して、その背中へと負ぶさる。慶花は無言で俺の目の前から立ち去った。俺に優しげな笑顔だけを投げかけて。
 妙に、寂しかった。迷子になった子供のように、打ち捨てられた乞食のように、荒れ果てた土地のように、寂しかった。今更、自分の行いが正しかったのかなどと自問自答する。こぼれた神酒が、杯に帰ることは無いのに。
 堪えていた涙が出そうになったそのとき、手にぬくもりを感じた。華奢だけど、ざらざらした、綺麗とは言えない感触の手。それは寝る間を惜しんで働いた手。見上げた凛の顔は、微笑を湛えていた。泣くべきじゃない。気丈に、微笑み返した。
 「行こうか」
 頷く凛の顔は喜びと不安が混じっている。それを、いつか喜びだけに染めることができるのだろうか。
 凛の不安を増やさないために、まだ泣くわけにはいかない。
 “お幸せに”
 重正の言葉を反芻して、凛の手を取り、歩みだした。



前半です。終わったように見えますが終わってません。
これだけじゃ“悲劇”じゃないので。
弁明みたいになりますけど刀の名前は某死神漫画に影響されたわけじゃないです。ただの名前に過ぎません。
[PR]
by hisaya_rikudo | 2005-11-18 20:05 | 小説

Diabolia幕間~霧上魔狐兎の場合~

乾いた音だけが連続してこの空間―――薄暗く、客の少ないトレーニングジムに響く。袋に詰められた砂はその身をひしめき合わせ、悲鳴を搾り出した。
打ち付ける拳にも、伸ばしきる腕の筋肉にも、もう痛みは無い。実戦で使えるのかどうかと尋ねられれば、口を閉ざす他は無いが。
「リハビリは順調かい?」
ちりぢりの頭髪を掲げた褐色の肌の男はジュースを片手に俺へとさわやかな笑みを向けた。着こなしたスーツは内側からはち切れんばかりに膨らんでおり、腰掛けた椅子は全身から悲鳴を発している。そんな巨体でありながら、スーツがやけに似合っているのが意外と言えば、意外だった。
「少なくとも、あんたのダイエットよりはな」
シニカルに口の端を吊り上げて、俺はその巨漢―――ゲイル・マクミールへと笑いかける。ゲイルは、そいつは結構なことで、と若干ばつが悪そうにコーラをテーブルへ置いた。とは言え、飲むのを控えたわけではなく、単純に中身が無くなっただけだろう。その証拠に、ゲイルは次のジュースを袋から取り出した。
袋に描かれたロゴは某有名ファーストフード店のものだ。俺はあの咀嚼し辛いパンと味気ない肉で作り上げたハンバーガーに人気が出る理由がいまいち分からない。料理が出てくるまでの素早さが好ましいと、日向は好んで食っていた。名前からして、それさえ売りであれば良いのだろうか。
サンドバッグに拳を打ち続ける俺の横でゲイルは包装されたハンバーガーを取り出した。一際大きくがさがさと音を立てて開いた中からは、矢鱈と大きいハンバーガーが出てくる。肉を五つも挟んだそれには流石の俺も目を疑った。
「今の店はそんなものを置いているのか?」
ゲイル専用メニューとしか思えない異様な質感を持った物体はこの地域の住民の肥満度数を挙げるに十分な効果をもたらすことだろう。俺が開発者なら、コストの面から鑑みても没にするのだが。
「まさか。オーダーメイドさ」
得意げに微笑むや否やゲイルは大口を開けてハンバーガーにかぶりついた。常人なら顎が外れていることだろう。俺は開いたままだった口を塞いで再びサンドバッグに向かう。フィオラとは違う意味で食欲をなくしてくれる男だ。見てるだけでこみ上げてきた胸焼けを吹き飛ばすかのように、俺は先ほどよりも速く、速く、無言の標的へ拳を叩き込む。風を切る音を増やし、汗を左右へ迸らせ、ゴム底の靴で床を鳴かせ、只管突き入れる。
「で、何の用だ?まさか態々俺を見舞いに来たわけでもないだろ」
少し強めに捻り込んだ一撃はサンドバッグを大きくきしませながら跳ね上げる。それを契機に、俺は揺れ続ける砂の振り子に背を向けてゲイルと対峙した。
左手の手の甲には僅かな違和感が残っている。それが気後れから来るものなのか、再生が不完全である警告なのか、判別は不可能だった。できることなら前者であってもらいたいものだ。楽観視は出来ないことであれども、そのために仕事を降りれる状況でもない。二ヶ月近くもの間、入ってきた仕事はどれだけ美味しいものでも怪我の療養のために断ってきたのだ。これ以上ブランクが空けば腕が落ち、仕事の依頼も減ってしまう。例え中途半端な回復であっても、踏み切るしかなかった。
荒々しげに腰を下ろされた椅子は、痛そうな声を上げる。ゲイルは袋からLサイズのジュースを取り出して勧めてきたが、断った。グレープフルーツジュースなら、筋肉に良いから飲もうかと思ったが、生憎コーラのような炭酸物は胃が張るから好きじゃない。ゲイルは僅かに肩を竦めて、コーラを自分の方へと寄せた。
「相方の色男はどうしたね」
ゲイルは辺りを見回すふりをした。居ないことに今気付いたわけでも無いだろうに。
「色男には、色男なりの事情があるらしいぞ」
あいつの行き先なんぞ知らない俺は、適当にはぐらかす。ゲイルはそれ以上追求するようなことはせず、床に置いていたアタッシュケースをテーブルの上に置いて、開けた。中から出てきたのは山吹色の封筒―――やはり、仕事か。
「怪我も完治というわけではないのだろうが、仕事は仕事だ」
お前が行ってくれないと俺が駆り出されてしまう、とゲイルは溜息を吐き出す。
「いいじゃないか、久しぶりに前線に出たらどうだ?元Sランカー“巨獣(ファットビースト)”」
Aランカーの査定官を生業とするゲイルも、数年前までは現役のSランククエスターだった。何を原因として第一線を退いたのかは、査定官としてのゲイルしか見たことがない俺には知る由も無い。柔和な風貌と性格で近所の評判も良いゲイルがクエスターだったという話すら嘘に聴こえるのだから、引退の理由など想像がつくはずもなかった。
ゲイルは勘弁してくれと手を振り
「今はペンキ塗りのゲイルおじさんだ」
微笑み混じりに呟いて、二個目の特大バーガーにかぶり付く。食いっぷりだけは、未だに二つ名に負けていないな。
嘆息しながら俺は封筒の封印を外し、中の書類を広げた。そして書類の内容に目を剥く。驚愕は一瞬で済ませたつもりだったが、ゲイルには軽々と見破られたらしく、広げた書類を覗き込まれた。
「ロインツ・ロッテン同盟側について三陣戦争で戦え、だとさ」
ティグナシー大陸ロンドン地方のロインツ・ロッテン同盟は、同大陸ブリスナー地方ティターン国と、同大陸シア地方クロケット国との混合戦線を展開している。それは四大陸中最大の激戦地であり、三陣戦争と名付けられた。こんなところに俺みたいな病み上がりを送り込むだなんて、上の方は何を考えているんだろうか。今回もご丁寧に封筒に名前を書いてきた派遣業務管理部部長補佐バロック・ミルドとかぬかすクソ爺が俺を殺したがってるのかもしれない。くそっ、ちょっと行って先に殺してやろうか。
今にも誰かを殺しそうな顔をしているに違いない俺を心配そうに眺めるのはゲイルだ。ハンバーガーを咀嚼する口も止まっている。
「代わりに行ってやろうか?」
―――何だと?まさか、俺がそんなに臆病に見えたというのか?
俺は途端に、腹の底から怒りがこみ上げてきた。ゲイルにじゃない。たかが怪我くらいで気後れしていた俺自身にだ。俺は唇を噛み締め、ゲイルを強く睨み付けた。
「死にたいのか?」
俺は大仰に胸を張って、自分より高い位置に顔のあるゲイルを無理矢理見下す。
「ペンキ屋はペンキ屋らしく壁に落書きでもしてろ。戦場で死ぬのは、戦士の仕事だ」
しゃしゃり出るな、デブ。そこまで一気に言うと、ゲイルは目を丸くして唖然とした。少しの間を空けて、ゲイルは可笑しそうに高い声で笑い出す。
「デブのペンキ屋の仕事は落書きを消すことだ。自分で書くもんじゃあない」
ゲイルは笑いながら訂正し、そして再び、瞳に悲しみを讃えて俺を見据えた。
「生きて戻って来い。死ぬには若すぎる」
聞き飽きた台詞だ。だが、耳朶に響く感触はいつでも心地良い。
「安心しろ。俺が今まで、一度でも死んで戻って来たことなんてあったか?」
くだらないジョークを交えて、俺は書類を纏めて席を立ち上がった。そのまま、汗臭いジムの出口へと歩き出す。
「帰ってきたら、また飲もうじゃないか」
背中に掛かってきた喜びと憂いの混じる不思議な声に、俺は手を挙げ、応えた。
「お前が少しでも痩せたらな」
振り返りもせず、俺はジムのドアを開ける。外の爽快な風が、鼻腔に溜まる汗臭さを吹き飛ばしていった。
大丈夫だ、生きて帰れる。
何故なら、そう思うことが一番大事だから。
降り注ぐ日差しの中、俺は騒がしい街中へ歩き出した。



久しぶりのDiaboliaは番外編ともいえる幕間です。王者の剣で負傷した魔狐兎のリハビリから、次の仕事へ移るまでの間の話です。
魔狐兎の次の仕事はクエストファイル4・祈りの鉄鎚に収録される予定です。
まだクエストファイル2なので先ですねー( ´・ω・`)
はやくファイル3の神討ちの槍も書かないとねー( ´・ω・`)
外伝も書かないとねー( ´・ω・`)

陸でした(つД`。)
[PR]
by hisaya_rikudo | 2005-09-13 20:58 | 小説


御国を守ります。
桜並木を切り飛ばす。

作品力を上げたい!同盟参加してます。

HN:陸堂久弥
好きなもの:麻雀
嫌いなもの:チョン
潰したいもの:創価学会
応援してるもの:又吉イエス
乗りたいモビルファイター:
ネオオランダ代表ネーデルガンダム
持病:中ニ病

長編
■Diabolia(連載中)
Infomation
クエストファイル1
王者の剣
[1][2][3][4][5][6][7]
クエストファイル2
白昼の暗器
[1][2][3][4]
Diabolia外伝
~陰謀と策略の影の愛情~
[1][2][3][4][5][6]
ある戦場にて(一話のみ)
記憶を濡らす琥珀酒(日向過去話)
幕間~霧上魔狐兎とゲイル・マクミール~


■兎に角なし(連載中)
キャラクター紹介
[1][2]


短編

赤い花

梅雨に乾杯

貫けた誓い

Time Insteae of Money

葬列の少女

四百字詰めの原稿用紙




ある殺人者の独白

僕は彼女が好きなんだ

フィオラ・ダンテの詩

悲しき呟き

空を飛んだ少年

My Name Is Time

偉大なる先達を讃えて

カチタイ。イキノコリタイ。

僕は道化

蜃気楼のオアシス

身勝手なHappyBirthday

エルフの御伽噺

生まれながらにして孤独
死に絶えるもまた孤独


タイトル省略

りんく

作家でごはん!

朝目新聞

裏ドラゴンボールマニア

X51.ORG

rotten.com

ogrish.com

2ちゃんねる

世界経済共同体党
(代表 又吉イエス)


鳥肌実オフィシャルサイト

+MONSTERS+

哲学的な何か、あと科学とか

ネトゲストッパー

Wisdom Guild

便利な通報先・警務関係などのリンク

The Jack Trace

韓国は“なぜ”反日か?

★★反日ブログ監視所★★

上祐史浩オフィシャルサイト

然吟ニの詩人窟

皇立詠風学院史料館

探偵喫茶↑UPSIDE DOWN↓

Baby face

A Dose Of Malice

民話と私と出血と

きまぐれの詩

聴くまで死ぬな、この曲を!!

ありあんの散歩道

Snow White.

爆撃機が落としたノート
カテゴリ
以前の記事
ライフログ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧